俺の女が見た事ない表情してる

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俺の女が見た事ない表情してる

目が覚めると、衝撃が走った。 俺の女が他の男と抱き合っている。 しかも愛しそうに頬にキスまでしている。 何故俺はここで固まっているのだろう。 何故俺は何も言葉を発しないのだろう。 ただただこの光景をぼんやりと眺めている。 昔、そのキスは俺が一身に受けていたものだったのに。 その熱量は全て俺のものだったのに。 これは嫉妬なのか…? でも今愛しそうにキスをした彼女は美しかった。 思わず息を飲んでしまう程に。 まるで聖母マリアだ。 そんな表情を俺に向けてくれた事は無かった。 見た事のない表情だった。 俺では引き出す事の出来ない顔だった。 君は変わってしまったんだね。 一番愛する対象が俺ではなくなってしまった。 君はその事を指摘したところで、きっと変わらない愛を訴えるだろう。 でもそれは嘘だ。 もしかしたら、君自身、その事にすでに気付いているのかもしれない。 気付いた上で、貴方が一番よ、と優しい嘘をつくのかもしれない。 白いカーテンが風で揺れている。 その揺らめきの奥にいた、俺の視線を感じた彼女がこちらへ話しかけてくる。 「あら、あなた。起きていたの? やっと今寝たのよ」 「寝顔は天使ね」 そうしてまた、聖母のような顔で微笑む。 俺は俺の愛する女と、その息子に近づき、2人にキスをした。 心地よい風が、カーテン越しに頬をかすめる。 「息子にヤキモチを妬くなんて、男はいつまでたっても子供だな」 気持ち良さそうに眠る息子に、そう心の中で話しかけて微笑んだ。
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