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「答えてください、彼は一人になることを恐れてあなたの存在を求めていましたか?」
「はい」
「彼はあなたがそばにいないと怯えていた。そうですね?」
覆す言葉が見つからない。
「はい」
「面会に行くたびにあなたが帰るのを恐れた。自分を分かってくれるあなたのような相手にそばにいて欲しいと強く願っていた。そうですね?」
返事の仕方に詰まった。どう答えることが正しいことなのか。
「宗田さん、答えてください、あなたは彼を一人にすることができましたか?」
「いいえ」
「つまり、彼が望み、あなたは出来る限りそばにいた」
「はい」
「普段、彼がそばにいてほしいと願う相手を3人教えてください」
「河野課長、池沢チーフ、宇野さんです」
「みんな男性ですね?」
そこで気づいた、相手の求めている答えに。
(マズった?)
西崎が冴木の質問に対して抗議したがそれは聞き入れられなかった。裁判での証言は厄介だ。質問されたことにのみ答えなければならず、そこに説明を挟む余地は無いのだから。
「異議あり。今の質問が事件に関係するとは思いません」
「弁護人、今の質問は何を聞くための質問ですか?」
「被害者の依存する傾向を知りたいのです」
「では、証人は答えてください」
「さっきあなたが言った人は全員男性ですね?」
「はい」
「以上です」
『敵意ある証人』とはみなされなかったが、自分までそんな目に遭っているということが裁判長にどんな心証を与えているのか。
(くそっ! 柿本の出所のことまで考えてなかった。あれは俺の気持ちを揺さぶるためだったんだ!)
冷静であろうとしたが、それでも花には出所しているという事実が影響していた。自分の目にある怒りに目をつけられたのだと思う。
(ジェイ、ごめん…… 油断したかもしれない)
もっと話したかった、ジェイのことを。あんなに中途半端な上っ面を聞いて、裁判長はなにを思っただろうか。花は歯噛みしたい気持ちでいっぱいだ。
次は野瀬の番となった。またもや冴木弁護士の素早い質問が始まる。考える暇を与えない、まるでゲームのように。
「野瀬さん。あなたは他のチームのチーフですね?」
「はい」
「被害者はあなたの職場ではどういう存在ですか?」
「真面目に仕事に取り組むいい社員です」
「質問の要点が分からなかったようですね。彼を職場の皆さんはどう思っていますか?」
「守ってやりたいと……そう思っています」
「被害者は職場でマドンナ、或いは姫と呼ばれていましたね?」
「……はい」
「女性的ですか?」
「いいえ。そう思わせるところはありません」
「でも彼の代名詞として、マドンナ、姫と呼ばれていた。職場での女性関係はどうでしたか?」
「女性関係などありませんでした」
「どうして言い切れるんですか?」
「彼はいつも女性に敬意をもって接していました」
「男性とそばにいる方が多かったですか?」
「ウチの職場は女性が少ないので…」
「若い男性は女性がいれば自然と女性と話すものです。でも彼は女性より男性と話すことを選んだ」
「意義あり。今の質問は偏見に満ちています」
「質問を変えます。彼が若い女性と二人で話すところを見たことがありますか? 仕事以外で」
「ありません」
「では、男性とは?」
「男の付き合いというのは女性とは違います」
「答えになっていません。男性とはプライベートなことも話していましたか?」
「……はい」
「質問を終わります」
そして、蓮の番になった。
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