1.被害者であること

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  「彼に家族がいないことはご存知ですね?」 「はい。それが元で付き合い方が上手くないのだと知りましたから」 「幼少の頃に父親が亡くなった。大学生の時に母親が亡くなった。被害者は入院中のお母さんを面倒見ながら、バイトで収入を得て生活を担い優秀な成績で大学を卒業した」 「そう聞いています。けれど、これは伝聞です」 「そうですか。ではそれ以上過去のことは話せないと?」 「はい。実際に彼を知っているのは入社後ですから」 「父親を早くに亡くした彼が、誰かに父性、或いは庇護を求めていると感じたことはありますか?」 「そういう条件付けで部下を見てきたわけではないので、ありません」 「彼は相談相手または信頼する相手として同性を対象にする傾向がありませんでしたか?」 「ご質問の意図が分かりません。私の部下の男女比率は偏っています。僅かな女性もほとんど若いので結果として指導を仰ぐのに男性と話すのは自然なことです。それは『傾向』とは言えません」  冴木の質問はことごとく蓮に切って捨てられる。  上司なら客観的にジェイの性的指向へのヒントを出すだろうと思ったのが当てが外れたようだ。  裁判官からの注意が入る。 「弁護人、先ほどから同じ内容の質問を繰り返していますが、発展性が認められないので内容を切り替えてください。無ければ質問を終了してください」   
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