1.被害者であること

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  「質問を変えます。被害者と加害者の出会いの様子について教えてください」 「上司から見て、他の社員と特に変わるところは見受けられませんでした」 「二人の間に特別な感情が働いたと感じることはありませんか?」 「ジェロームは目上に対していつも一歩下がる、最近では珍しく礼儀をわきまえた若者です。加害者に対して特別な感情を抱く様子は全くありませんでした。反対に加害者は上司を上司とも思わない不遜な態度を取る傾向がありました。上に立って下の者を導く指導力を感じませんでした」 「質問を終わります」 「河野さんを証人に呼んだのは向こうの作戦ミスですね。これはポイントを稼いだと思います」  花と野瀬は冴木に翻弄された部分を感じていた。 「宗田さん、申し訳ありません、向こうの質問を止められなくて」  花の過去にまで遡って質問が及ぶなどとは想像も出来なかった。 「済みません、途中で妙な返事をしたような気がします」  まさかこの事件で自分の過去を抉られるとは思ってもいなかった花。蓮も野瀬も花にかける言葉が見つからない。改めて花の苦しみを突き付けられた気がした。 「いえ。立派な態度で答えてらしたですよ。有難いと思っています」  野瀬も頭を下げた。自分の答え方に自信がない。 「野瀬さんもあまり気にしなくていいと思いますよ。ああいったまわりくどい質問で混乱する証人は多いです。彼は技巧に走るタイプですね。あまり裁判官に好かれないと思います。最後を河野さんが締めくくったことで、たとえそれまでの証言に不利があったとしても拂拭されたと思いますよ」  
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