1.被害者であること

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   今のジェイなら。 (今のお前なら立派にやってのけるよ。負けるな、あんなヤツに!) 「昼、どうした? まさか一人で外に行ってないだろうな」 「今日はチームで食べに行ったよ。あれこれお喋りしてた。翔くんはバトミントンやってたんだって。強かったらしいよ。石尾くんは水泳だって」 「そっか! 今年の夏はさ、チームで泳ぎに行こう」  ジェイは焦った。自分だけ泳げないのだ、それが恥ずかしい。 「俺、今年の夏休みは墓参りとかいろいろあって……」 「写真撮ってさ、哲平さんに送ろうかと思ってたんだけどな」 「ごめん、ホントに忙しいんだよ」  まず泳げるようにならなくちゃならない。焦っているジェイから、さっきまでの緊張感がちょっと遠くなる。 「でもさ、チャンスあったら夏、みんなでどっか行こう。もう三途さんに『山に連れてく』って言われる心配無いから安心だよ。チーフと忙しいだろうしね」 「それはどうかな……」  ジェイが危ぶむ。 「なんで?」 「リベンジするつもりらしいよ。イチさんがそう言われて困ったって」 「げ! 懲りないなぁ。でもチーフが止めるよ」 「チーフも付いてくって言い足してるみたい。一人じゃ行かせられないから」 「ド素人のチーフが一緒? じゃ、二人で遭難かよ」 「花さん! 縁起悪い」  三途の退院は6月だ。会社への復帰が待ち遠しいような、怖いような。  
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