1.被害者であること

17/20
前へ
/203ページ
次へ
   蓮の仕事の様子は落ち着いていた。目が合ったけど頷かれて口元が緩んだ。そのまま帰りの車の中まで話はしなかった。 「蓮、お疲れさま。花さんから聞いた、蓮が落ち着いてたから大丈夫だって」  すぐに返事をしない蓮の顔を見ると厳しい顔をしている。 「蓮?」 「お前の準備に時間をかけよう。今日、肌で感じたが気を抜いちゃダメだっていうのが実感だ」 「……厳しかった?」 「弁護士だからな、当然理屈屋だ。それも厄介な。自分の欲しい答えを引き出そうとガッついてる」  対向車のライトがやたら眩しい。 「俺じゃ無理だと思ってる?」 「そうじゃない、慣れが必要なんだと思う。……お前、ある程度ノートがまとまったら俺相手にやってみないか? 模擬の質問回答ってヤツ」 「模擬?」 「ああ。事前プレゼンやる時の要領だ。だいぶ違うと思う」 「花さんが裁判所に連れてってくれるって言ってた。威圧感を感じるから場慣れしろって」 「そうだな、それもしておけ。お前には必要だ」  しばらく沈黙が続いて、蓮は音楽をつけた。例によって小さな音だ。 「今日はおばちゃんとこで食おう。俺も疲れた、おばちゃんの顔が見たい。どうだ?」 「行く! 会いたい、久しぶりに」 「じゃ、そうしよう」  蓮は車の進路を変えた。   
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

457人が本棚に入れています
本棚に追加