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蓮の仕事の様子は落ち着いていた。目が合ったけど頷かれて口元が緩んだ。そのまま帰りの車の中まで話はしなかった。
「蓮、お疲れさま。花さんから聞いた、蓮が落ち着いてたから大丈夫だって」
すぐに返事をしない蓮の顔を見ると厳しい顔をしている。
「蓮?」
「お前の準備に時間をかけよう。今日、肌で感じたが気を抜いちゃダメだっていうのが実感だ」
「……厳しかった?」
「弁護士だからな、当然理屈屋だ。それも厄介な。自分の欲しい答えを引き出そうとガッついてる」
対向車のライトがやたら眩しい。
「俺じゃ無理だと思ってる?」
「そうじゃない、慣れが必要なんだと思う。……お前、ある程度ノートがまとまったら俺相手にやってみないか? 模擬の質問回答ってヤツ」
「模擬?」
「ああ。事前プレゼンやる時の要領だ。だいぶ違うと思う」
「花さんが裁判所に連れてってくれるって言ってた。威圧感を感じるから場慣れしろって」
「そうだな、それもしておけ。お前には必要だ」
しばらく沈黙が続いて、蓮は音楽をつけた。例によって小さな音だ。
「今日はおばちゃんとこで食おう。俺も疲れた、おばちゃんの顔が見たい。どうだ?」
「行く! 会いたい、久しぶりに」
「じゃ、そうしよう」
蓮は車の進路を変えた。
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