1.被害者であること

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  「いらっしゃい! 久しぶりね、蓮ちゃんもジェイちゃんも」 「こんばんは!」 「俺、酒ダメ」 「車ね? じゃ、ジェイちゃんは?」  ジェイが答える前に蓮が答えた。 「こいつは牛乳割、1杯だけ飲ませてやって」 「あいよ、1杯だけね」 「いいの?」 「ああ、1杯な」 「あれ、好き」 「一気はダメだぞ」 「ゆっくり飲むよ」  おばちゃんは事件のことを何も知らない。ここは心の避難所だ。 「おばちゃん、腰、平気? この間、痛いって言ってた」 「大丈夫よ。覚えててくれたの?」 「うん。ちょっと心配だったから」 「湿布貼ったら次の日には治ってたわよ。まだ若いってことかな」  おばちゃんは52歳だと言っていた。旦那さんは6年前に亡くなったというのにすごく明るくてパワーがある。 「今日は何から行く?」 「垂れ皮3本と、ねぎ間2本。あと砂肝ください」 「あら、砂肝だなんて渋いわね」 「噛み心地いいから」 「じゃ、蓮ちゃんは?」 「適当に焼いて」 「はいはい。ジェイちゃん、こういうお客さんってホント困るのよ」  そう笑いながら言う。来れば来るほど、おばちゃんが好きになって行く。 「なんだ、まさかおばちゃんに恋してるんじゃないよな」  不機嫌そうな蓮の顔にきょとんとして笑った。 「蓮、おばちゃんに妬きもち?」 「うるさい。今みたいな目で人を見るな」 「今みたいな目って?」 「いい、もう」 「変なの。相手はおばちゃんなのに」   
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