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その夜。蓮はノートに向かっているジェイの背中を見ていた。
「あ、ごめんね。テレビ見るなら自分のとこでやってくる」
「いいんだ、そこでやれ。聞きたいことがあればすぐに答えられるし。まだまとめるのか?」
「何度もまとめ直してるんだ。違う書き方するとだんだん自分の言葉になってくるから。それに思い出すのが多くなる」
「何かキツいの、思い出したか?」
ジェイの手が止まった。じっとノートを見ている。
「……あそこ。連れて行かれた古い家の匂い。埃っぽくて黴臭かった」
「そうか……匂いって記憶に残りやすいんだって聞いたことがある」
「そうだね、匂い思い出すといろんなのが出てくるよ」
割と冷静な声に安心していいのやら……
「ほら、ここに置くから零すなよ」
「ホットミルク! ありがとう!」
「熱いから」
辛いだろうに、いつもと変わらない素直なジェイだ。
(お前はどんな時も、どんなに慣れた相手にも『ありがとう』って言うんだ…… 俺はお前のそういうところを尊敬してるよ)
離れる時に頭をくしゃりと撫でた。振り返ったジェイの顔に笑顔が浮かんでいた。
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