1.被害者であること

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   その夜。蓮はノートに向かっているジェイの背中を見ていた。 「あ、ごめんね。テレビ見るなら自分のとこでやってくる」 「いいんだ、そこでやれ。聞きたいことがあればすぐに答えられるし。まだまとめるのか?」 「何度もまとめ直してるんだ。違う書き方するとだんだん自分の言葉になってくるから。それに思い出すのが多くなる」 「何かキツいの、思い出したか?」  ジェイの手が止まった。じっとノートを見ている。 「……あそこ。連れて行かれた古い家の匂い。埃っぽくて黴臭かった」 「そうか……匂いって記憶に残りやすいんだって聞いたことがある」 「そうだね、匂い思い出すといろんなのが出てくるよ」  割と冷静な声に安心していいのやら…… 「ほら、ここに置くから零すなよ」 「ホットミルク! ありがとう!」 「熱いから」  辛いだろうに、いつもと変わらない素直なジェイだ。 (お前はどんな時も、どんなに慣れた相手にも『ありがとう』って言うんだ…… 俺はお前のそういうところを尊敬してるよ)  離れる時に頭をくしゃりと撫でた。振り返ったジェイの顔に笑顔が浮かんでいた。  
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