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公判から3日。ジェイは花と一緒にノートの穴を埋め、またそれをまとめ直す作業を繰り返した。何度も違う角度からやり直す。
蓮の視点から書いてみる。花の視点から書いてみる。哲平、野瀬、柏木……
みんなのことを思い浮かべた。
思い出す中で分かってくる。自分がどれほどの迷惑をかけたか、そしてそれでもみんなが自分を信じてくれたか。
(まだ足りない……思い出せない、あの家でのこと……)
たくさんのアルコールを飲まされた。途中から記憶が飛んでいる。蓮も花もそれだけ酔えば覚えているはずがないと言ってくれた。
けれど思い出さなければならないことがある。それが何か分からない。
他の部分はまだ少し切れ切れなところがあるが、順番を追えるほどには思い出しつつあった。ノートを出さない時には、何度も頭の中でその記憶を辿っていく。
(もっと鮮明に。もっとはっきり)
それは苦しくて辛くて下手をすると記憶の海に溺れそうだった。けれど蓮がいてくれた。俯くと額に頬にキスが舞い降り、涙が滲みそうになると背中を撫でられた。
「蓮、愛してる……」
「知ってるよ」
「でも、もっともっと前よりも愛してるんだ」
蓮がそっと口づけてくれる。
「それも知ってる。なぜかってな、俺も同じだからだよ。前よりもずっとお前を愛してる。苦しかったら寄りかかれ、そのために俺はいるんだ」
だから頑張れる。記憶に潰されそうになると蓮を見た。すぐに気がついてジェイを見つめ返してくれる。
オフィスで不意に体が止まると蓮から内線が入った。
『見てる。ここにいるから』
それだけ言って電話が切れる。けれどその言葉が支えてくれた。今は必死だった。記憶と戦うことに。
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