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家に帰ると、すぐに白い龍を見に行った。
そいつは、まだ水の入った鉢の中に居た。
ヒロトくんに押された肩が、ジンジンした。
ぼくは鉢を抱えると、庭に出た。まだ陽は高くて、雲もほとんどない良い天気だった。
「いつまで」
鉢を抱える手に力が入る。
「いつまでこんな、水の中にいるんだ、どうして出てこなくて、どうして、
どうして、空を飛ばないんだ」
思いきり。
思いきり、鉢を投げた。
鉢から水が出て、追うように白い龍が出て、宙に舞った。
あ、飛んでる。
そう思った瞬間、鉢も水も白い龍も、すべてが地面に叩きつけられた。
白い龍はピチピチと、みにくく、地面でもがいている。
ぼくはしゃがんでそいつを覗きこんだ。
赤い色のはげた、ただの金魚だった。
ぼくはそっと、そいつに触れる。パクパクと、懸命に何かを訴えるかのように、動いている。
しばらくして、静かに動かなくなった。
そいつはもう動かなかった。
そいつはもう白い龍ではなかった。
了
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