悲愴のセレナード

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どれくらいの飛行だったか。 二階の部屋から飛び降りるのではなく、飛び立つなんて想像もつかなかった。 あっという間に舞い上がり今、空高く飛んでいるのはまさしく剣斗だ。 剣斗にしがみつくのに必死で、回りを気にする余裕もなく、気が付けば出会った場所にいた。 「大丈夫? 昼間で良かったよ。 何かされた? 手首が赤くなってる。」 「大丈夫、捕まれただけだから。」 すぐに、あの老夫婦が出てきた。 そして、何も聞かずに家の中へ招き入れてくれた。 こんなに赤くなっちゃってとお婆さんが私の手首を撫で、湿布を張ってくれた。 湿布なんて臭いから嫌なのに、お婆さんの優しさが温かく身に染みて、いい臭いだと思えてしまった。
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