押入れ

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実家は築50年の小さい家だった。 住んでいた両親が遂に老人ホームに移るという事で、私にその家の名義と管理役が譲られた。 築年数が古い家屋だが、職場から近い事と親孝行の気持ちで引き受けたのだった。 高校卒業以来となる実家での暮らしは中々悪くなかった。 しかし何日か住むと、気になる点が見えるようになった。 二階の和室の押入れが、いつも10cm程開いているのだ。 何分古い家だから、建物自体が歪んでしまっているのだろうか。 その部屋の畳を踏みつけると、心なしかぐねぐねとした感触があるような気がした。 これは早急にリフォームの見積もりをとらなければならないだろう。 私は預金通帳を睨みながら電卓を叩いた。 ある日の深夜、残業と飲み会が続いた私は頭に靄がかかった状態で帰宅した。 暗く火の気のない我が家にそっと入り込み、台所で水を一杯あおる。 すると、二階から何やらごそごそと音がした。 これはいけない。 泥棒か。 酔いが遠のいた私は足音を立てないよう極力気をつけて外に出た。 庭から二階の窓を確認すると、懐中電灯らしき光がちらちらと光っているのが見えた。 物音はどうやらあの和室のようだった。 私は即座に警察に連絡し、寒空の下で冷えた体を震わせた。 ものの数分で警察がやって来て、黒い服を着た中年の男が窃盗の容疑で逮捕された。 男はパトロールカーに乗る際、私の方をちらりと見た。 唇を大きく動かしている。 お し い れ 男は笑いながらそう言ったような気がした。 私は嫌な気分を抱えて家に入り、風呂にも入らず自室のベッドに倒れこんだ。 一ヵ月後、大掛かりなリフォームにより二階の壁を取り壊した時の事。 押入れの天井裏から持ち主不明の位牌が4柱、転がり出てきた。
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