待ち人のバス停

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「私にも分かりません。ただ覚えていることは、私には娘がいたってことですかね。女房は娘が小さい時に亡くなってそれから、私の母と三人で暮らしていました。娘のことは女房に任せきりで、死んでからは母がずっと世話していました。私は仕事、仕事って仕事を優先して生きているもんで、なにより仕事することが家族の為になるって思っていますからね。でもね、娘が中学に入った時からだんだん私のこと避けるようになってそれからよく口論しましたよ。私も頑固な性格ですから、娘も私に似て頑固でしたね。それもあって仲が悪くなったんでしょうね」 男は胸元をかきむしりながら言った。 「まあ、お恥ずかしい限りですが、あれからまともに話したことがないんですよ。私と娘の仲は最悪ですね。でもね、昔はよかった。まだ、娘が小さい時は仕事に行く私を励ましてくれました。それから」 男が首にかけた物を取り出す。 「見てください、このお守り、娘の手作りです。今のあいつに見せたところで覚えていないでしょうがね。貰ったときは嬉しくてね、娘の為にも仕事を命がけでやらなくてはと思えました。それが、今では会話もない始末です。私は何をしていたのですかね、仕事をすることが娘の為になる、なんて思いこんで、仕事をする言い訳にしてしまいました。女房が死んだ日も私は仕事を優先していましたから、娘にいつも言われるんです。「仕事と家族どっちが大事なのかと」私にはどちらも大事だからこそ、仕事を優先していました」
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