待ち人のバス停

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「少し思い出したのですが、ここに来る前に、小さな女の子が泣いていた気がします。その子が娘の小さかった時によく似ていてね、、、それから何も見えなくなったんですけど、娘の声だけ聞こえてきたんですよ。ごめんね、ごめんねって。何を謝っているのか分からなかったですね。気がついたら霧の中を歩いていました。あの子は何だったんでしょう、、ああいや、思い出しました。女の子はビルの屋上にいて、男と一緒でした。私はその男と何か口論していたような気がします。女の子の手を握りしめた男が淵の方にどんどん近づいて行くんです。それを見ていると、娘のことが頭に浮かびまして、気づいたときには体が走り出してました。急降下するジェットコースターはきっとこんな感じかと思いましたね。家族三人で遊園地にも行けなかった。そう思うと娘にしてやれなかったことが沸き上がってきて、今まで生きた人生を思い返しながらその男と一緒に落ちたのですね。私」 僕は男の顔を見つめた。額に空いた割れ目から赤い滴が緩やかに流れ出る。 「ブォォン」錆びついたクラクションを鳴らしバスが来る。 「私はこのバスに乗らないといけませんね、話を聞いてくださり、ありがとうございます。後悔、ばかりの人生でしたが、悔いはありません。それでは失礼します」 男はバスに乗りこちらを見て深く一礼した。錆びついたバスは霧の中に消えて行く。 僕はバスを待っている。
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