立ち直れない

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ーーこの度16歳の息子が自ら旅立ちました。 収録前のお便りの前読みは、大事な作業、ルーティンとしてしっかり行っている。 厚めの封筒から出てきたお便りは、衝撃的内容だった。 ご親族は相当悲しみに暮れている中、気丈にもお便りを送ってくれた。彼の最期のお便りも同封されて。私=小林真美は最初内容をよく理解出来なかったけど、もう1度深呼吸をしてお便りを読み返す。 ーーあなたのラジオCDやグッズがたくさん残されていました。あなたさまが息子の心の支えになっていたのだと思います。たくさんの感謝を私たちは持っています。 文章の随所に息子さんを失った悲しみを綴りながら、私への感謝の言葉がちりばめられていた。 そして彼の最期のお便り。 私は読みながら次第に手が震え、足が震え、全身が震え、涙が止まらなくなった。自ら命を絶った。その事実が私という存在を大きな金属のハンマーで粉々に破壊されたような、悲しい。寂しい。悔しい気持ちが繰り返し繰り返し襲った。 私はラジオパーソナリティとして「ハート・オンライン」をテーマにトークをしてきたつもりだ。私の番組『小林真美のDAY Catch UP』で常に明るく前向きな私の想いを伝えて、マイクの向こう側にいるリスナーを少しでも元気づけたいと心から思って活動してきた。それを気持ちが悪いと思われるほどに信じ切っていたのに。 「マミちゃんどうした?」 アシスタントとしてサポートしてくれる安田ヤスオさんが私の様子を気遣いの言葉を投げかけてくれた。無言でそっとこの手紙を渡す。 読み進めてゆく安田さんの表情がみるみる曇っていくのがわかる。いやいやなんともねぇ、と読み終えると大きく背伸びをしてコーヒーを飲みほした。 「人生簡単に諦めすぎだよね。」 安田さんは天井を見ながらまたポツリ。 私はなにか助けにならなかったのだろうかと、自分を責めたりしている、 この時ディレクター小此木さんの判断は迅速だ。 お便りを読むと、私の整理がつかない間は放送で使わない。いったん封印する判断を下した。そして近いうちにこのお便りについて語る時間を作ると約束してくれた。その頃にはまず落ち着こう。今日は元気を届けようと、いい聞かせて立て直そうとした。 もうしわけないけど、今日の収録明るく頼むよ。すこし落ち着く時間は用意するからね。 小此木さんの声は優しく、厳しかった。私はただ感謝した。
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