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第十話 光の指す先へ ( 3 )
ユアン達が、緑の巨人と戦闘を開始し始めた頃――特別学区内の商業地域では、エルダヤンをはじめ、特別学区で働く教員達は、工業技術科と農業技術科の関係者に加え、魔法技術科の関係者も合わせて避難をさせていた。
工業技術科へと続く道を隔てるように建つ『工業の門』では、工業技術科の生徒達が続々と避難して来る。
「早く! 急いで!」
最後の一人と思われる生徒が門をくぐるや否や、エルダヤンは手を上げ合図する。すると……門はゆっくり、ゆっくりとゴゴゴ……と重たい音を立てながら、避難用ゲートを降ろす。キキキ……と聞き心地の悪い金属特有の摩擦音を嘆きながら、やがて……ドスン、と鉄門を降ろしその役目を終えた。
ふう……と、一息つくエルダヤンの元に白衣姿の女医・テラーが、先生! と駆けつける。
「ああ……確か、魔法技術科の――」
「住民達の避難の進捗状況はいかがでしょうか?」
「今ので、大体は終了ですかね……」
そうですか。良かった……と、ホッと胸を撫で下ろすテラー。身内以外の外面は割と良いタイプのよう。
「後は……あの子達次第って事ですよね? 大丈夫ですよ。きっと、上手くやってくれますから」
明るく振る舞おうとするテラーとは対象的に、エルダヤンは憮然とした態度を貫きながら、懐からタバコを取り出しひょいと咥えた。次いで、ライターを難しい顔をしながら探すも……なかなか見つからない。おや? 何処だ?……とゴソゴソとポケットをあちこち探していると、テラーがはい……と、魔法で指先に小さな灯りを灯した。
「……こりゃ、どうも」
エルダヤンは、恐縮しながら火を借り、ようやく一服つけた。美味そうにタバコをくぐらせる姿を見て、テラーはフフフ……と笑う。
「正直……情けないですよ。大人として。親御さん達にとって大切な子供達を預かって、独り立ち出来る様に技術を教える偉そうな立場でありながら、いざ肝心な時には、子供達を守ってやれないなんて……」
「仕方ありませんよ。この特別学区には、学校には関係の無い一般の方々もいらっしゃいますし……被害は最小限に抑えないと、この特別学区の存在意義に関わりますから――」
ユアン達を信用してない訳ではないが、肝心要な時に限って何も出来ないもどかしさだけが頭を過る。エルダヤンを励まそうと傍らで微笑むテラーの姿が、今のエルダヤンにとって唯一の救いだった。
「……無事に帰って来いよ。絶対に」
エルダヤンは、只々祈る様に鎮守の森を見る事しか出来なかった。
一方その頃のユアン達は――鎮守の森の奥深くで、黒ベルと岩の巨人が合体した緑の巨人と戦闘の真っ最中であった。
ミオナの乗るバタバタと、ユアンの乗るアクトポーンは、圧倒的な機動力を活かして緑の巨人を振り回してはいるものの……素手のバタバタとアクトポーンの豆鉄砲では、緑の巨人相手に大したダメージは与えられず不毛な泥仕合を展開していた。
今の所、大したダメージを貰ってはいないが、このままでは燃料が心許無く、捕まるのは最早時間の問題。対する緑の巨人は、黒ベルの身体が浮き出てる胸部部分を中心に、月夜に照らされてキラキラと輝いていた。
「いつ迄逃げ回ってるの。もう、いい加減捕まっちゃいなさいよぉ! そしてぇ……死んじゃえ!!」
緑の巨人の目の前をほうきに乗って飛び回るイーデルアイギス。そんな思い通りに行ってなるものですかと言わんばかりに、緑の巨人の攻撃を上手く躱して魔法を使わせているが、彼女の顔には疲れが色濃く見えている。
『うーん……このままでは埒が明かないなぁ。何とか、良い方法は無いのかい?』
「そんな出来すぎた話、都合良く転がってる訳が――」
『……無くもないかもニャ』
えっ? と、ヘッドホン越しに語る猫ちゃんに一同の注目が集まる。
ニケは、アクトポーンを駆るユアンの座席に設置された紙袋の中から、コレはあくまでも想像の範囲の話だけどと前置きを置いた上で持論を展開させた。
「あの身体の大きさを支えるには、それなりのエネルギーの供給が必要な筈ニャ。だから、あーやって、人を挑発して短期決戦に持ち込もうとしてるんだろうニャ……」
多分……オイラ達が思っている以上に、アイツのエネルギーの消費と供給のバランスが釣り合っていないって事かも……と、ニケは指摘。パワーと硬さに振り切り過ぎたが故に、相手が自分達以上に尻に火が付いている状態だと鑑みて見ると……ユアン達一同に、薄っすらと勝利への光明が見えてきた。だが、問題自体が解決した訳では無い。
「恐らく……ユアンから奪い取った、錬成銀の短剣が何らかの役割を果たしている筈。ソレさえ何とかする事が出来るのであれば……」
『でも、その短剣をどうやって引っ張り出すのさ? 森中の養分吸い上げてヨロシクやっちゃってる緑の化物相手に……』
ミオナの発言を受け、通信越しにイーデルアイギスの、あ――!! と、何かが閃いた叫び声が聞こえた。
『緑って言うことは……ヤツの身体の一部は植物で出来てるって事だから、ヤツが呼吸を出来なくさせればそれで良いんですわ! そうすれば、息をするために何らかのリアクションをしてくる筈……何故今まで思い付かなかったのかしら』
「でも、どうやってその状況に持って行くんスか? まさか、空気でも消してしまおうって事じゃ――」
『フフフ……それなら、私に考えがあるんだけどさ――』
根拠の無い自信に意味不明な笑い。こういう時、先輩は絶対無茶苦茶するんだよなあ……通信越しに聞こえるミオナの声に、一抹の不安が頭を過るユアンなのであった。
ユアン達が緑の巨人に苦戦する中――帰路を急ぐリリーベルは、ようやく学区の外門に到着した。
いつもの見慣れた何処か牧歌的な光景とは違い、命からがら避難をする人々で溢れ返り、中には……小さな子供や身体の不自由な老人達の姿もあって、流石のリリーベルでもこの異変に驚きを隠せなかった。
「コレは……どういう事?」
リリーベルが事態を把握出来ず右往左往と戸惑っていると……おーい、と聞き覚えのある声。振り返ると……エルダヤンとテラーが、心配した面持ちで駆け寄って来る。
「無事だったか。良かった」
リリーベルは、エルダヤンとテラーから簡単に事の顛末聞いた。
ユアン達が黒ベルの襲撃を受けて、形見の短剣を奪われた所から、謎の地震の発生源の元である鎮守の森に、TAを伴って向かって行った事迄。自身が不在だった間に、こんなにも事態が急変していた事に、心の何処かに留めておいた不安の波が一気に溢れる。
「え? じゃあ、マシンワークスのみんなは? 先輩やユアンは?」
「分からん。だが、無事だとは思う」
「……何故、無事だって言い切れるんですか? 怪我人だって居るのに。それに、それにぃ――」
不安を爆発させ、エルダヤンに食って掛かるリリーベル。膝をカクカクと震わせ、必死で溢れ出る涙を堪える。まだ、言いたい事が言えてないのに……顔を覆い今にも崩れ落ちそうな少女の頭を、エルダヤンはポンポンと撫でる。
「こうやって、ドッカンドッカン派手にやっちゃってる音がするって事は、まだ戦闘が続いてる筈。と、言う事は……アイツらがまだ生きてるって証拠だよ。それに、アイツらが簡単にやられちまうと思うか?」
暫くの沈黙の後……ですよね。そんな簡単にやられちゃう筈ないですもんね。と、安心したのか、リリーベルは涙を拭いながら笑顔で顔を上げる。思う所は少しはあるらしい。
「……で、どうする? ココで俺達と一緒に待っとくか?」
「ボクも、マシンワークスの一員です。みんなが待ってるんで……行ってきます!!」
「じゃあ、しっかりケジメつけてこい!」
リリーベルは、ハイ! と元気に返事をして一礼した後、ほうきに跨り颯爽と飛び去って行った。
その姿を不安げに見送るテラーとは対象的に、エルダヤンの面持ちは何処か晴れやかだった。
「……本当に、大丈夫なんでしょうか?」
「アイツらは一人じゃない、もう立派なチームですよ。あれくらいの事で負ける事なんてありませんよ」
アハハ……と豪快に笑い飛ばすエルダヤンを見て、不思議とそんな気がするテラーであった。
そんな事をしていく内に……特別学区を覆っていた闇夜の幕は、東の空より次第に白んでゆく。
緑の巨人とマシンワークスの連中の戦闘が佳境を間もなく迎えようとする中――ミオナ達は、工業地域にある大きなコンクリート造りの建屋に逃げ込んでいた。
ココは、普段マシンワークスの連中や他の機械屋達が機械の資材や廃材を保管している大きな建屋で、一つの出入口と一つの小さな窓以外は無い完全な密閉空間。中では鉄の塊達があちこちに散見している。
うず高く積み上がった鉄の塊達は、ミオナ達が身を隠すには申し分無いが、密閉している空間であるが故に幾分か塵と埃が堆積している。
因みに、以前こなした仕事の報酬として貰ったグリルポーンの残骸もここにある。
緑の巨人は、自身がこの場所に誘い込まれた事には既に気付いていた。が、彼らの挑発に乗らないと言う選択肢は、本人にはもう持ち合わせてはいなかった。
黒ベルが取り込んだ錬成銀の短剣が、身体の奥底から強烈に語りかけてくる……この力が本当に欲しいのなら、元の持ち主を殺せ! 力なき者には死を!!……と、半ば脅しにも似た訴え。
コレを体内に取り入れてから、ずーっと洗脳のように繰り返し繰り返し頭の中で反響している為、黒ベルの判断力は些か鈍くなって、ちょっとしたノイローゼ状態になっていた。
その上、夜通し暴れて疲れてきている事もあり、黒ベルの頭の中では……この奴隷の様な環境から、一分一秒でも早く開放される事のみを期待し亡者の様に動き続けていた。でなければ、鎮守の森という巨大なエネルギー貯蔵庫から離れ、エーテルの影響が著しく弱い工業地域迄来る理由が無い。
「見てなさいよォ……ココで、アイツらを全員やっつけて、アタシの本当の居場所。安住の地を手に入れてやるんだから!!」
緑の巨人は当たり散らすようにその腕を振り回し、無造作に転がっている廃材を次々と薙ぎ倒していった。
大小構わず舞い上がるガラクタ。そんな中で……緑の巨人は、不敵な笑顔で仁王立ちするミオナと、不安に苛まれて顔面蒼白なイーデルアイギスを発見した。
「さあ、見つけたわよぉ! まずは、お前達から叩き潰してやるぅ!!」
命の危機を感じオロオロするイーデルアイギスを、ミオナは袖を引っ張り引き留めている。
「せ、先輩!」
「大丈夫。コレは、想定内なんだから」
緑の巨人は、これでも食らえとミオナ達めがけて全体重を乗せて腕を振り抜いた。石柱にも似た巨大な腕は地面に衝突。ドーンと派手に土煙と粉塵が派手に舞い上がる。
「フフフ……殺ったか?」
土煙が晴れ、勝ち誇った様に突き刺さった腕を引き上げる緑の巨人。どんな様子かと覗き込んでみると……何も無い。
「ど……何処?」
緑の巨人がキョロキョロと見渡していると……巨人の足下から、ミオナとイーデルアイギスが走って出て来る。
「イーデル! 走って!!」
「ちょ……お腹が……」
ミオナは、必死でイーデルアイギスの手を引き走り出すも、当のイーデルアイギスがお腹を抱えて千鳥足状態。どうやら、魔法を使い過ぎた様子で、逃げ回るのに完全にブレーキになっていた。
「ううっ……もう、無理ィ――」
とうとうお腹の痛みに耐えきれずへたり込むイーデルアイギス。最早、追いつかれるのは時間の問題のようだ。
「ちょ……想定外なんですけど!」
迫る緑の巨人に一向に動かないイーデルアイギス。ちょっと無謀とも思える自身のアイデアに人生最大のピンチに焦るミオナ。怒りに任せて迫り来る緑の巨人に、もう、こりゃ無理かな……と、ミオナが諦めかけたその時――建屋の入り口から、一本の釣り糸が勢いよく飛んで来た。
「えっ? まさか、コレは……?」
ミオナとイーデルアイギスは、あれよあれよと釣り糸にグルグル巻きにされていく。えっ? ええーっ!?……と、二人に戸惑う暇も与えず、釣り糸はミオナ達をさらっていく。
糸の伸びたその先では――アクトポーンに見守られる様に釣り竿を必死の形相で引き上げようとするリリーベルと、傍らで応援するニケの姿が見える。
「ほーれ、やったれーっ!! お前の持ってるニトラのド根性見せたるニャーッ!!」
猫ちゃんに煽られる様に、リリーベルは、おおお……と、一昔前に流行った少年漫画の主人公の様な掛け声を空に放ち、全体重をかけ力任せに竿を引き上げる。
「うう……ド根性ォ!!」
倒れ込みながらリリーベルは、竿を力の限り引き上げた。中に放たれた例の釣り糸は、ミオナとイーデルアイギスに絡まった状態で勢い良く引っ張り上げた。あー……と、悲鳴にも似た声と共に一本釣りされるミオナとイーデルアイギス。
「よっしゃ! ヌシ釣ったニャー!!」
「ユアン!」
倒れ込みながらリリーベルは、アクトポーンに手を上げ合図を送る。
『任せろ!!』
合図に呼応したアクトポーンは緑の巨人が迫る中、建屋の扉に手を掛け閉め始める。鉄で出来た重苦しい扉は、ゴゴゴ……と地面を削り、怠惰で苦痛を伴う悲鳴の様な音を立て引き摺り動く。
ようやくココで事を理解したのか、緑の巨人は、させるかー! と、ユアン達に必死に迫る。そうはさせじと、ユアンは、いけぇーー!!……と、握るハンドルに力が入る。
狂気に取り憑かれた緑の巨人が、寸での所で扉に手が掛かりそうになったその時――ドスンと重たい音を立て、中に閉じ込めた。
その直後、中から何かがぶつかったような衝突音が扉越しに伝わる。おおお……出せー! 開けろー!! と、悲鳴にも似た恨み節を扉越しに放ち続けながらドンドンと扉を叩く。
「こんな所で死んでたまるかぁ! アタシは、アタシはぁ……絶対にィ、絶対にぃ――」
中では、完全にパニック状態の緑の巨人の足下には……火の付いた爆竹が転がるが、どうやら気付いていない。
一方の外では、ミオナとイーデルアイギスに纏わりついていた釣り糸を、リリーベルとニケの手助があり、ようやく開放されていた。
「……で、これからどうするんですか? コレで終了ですか?」
「もう、そろそろな筈なんだけどねぇ。正直……コレで駄目なら、私等にはもう打つ手が無いよ」
ミオナが座り込んでうーん……と、唸っていると、突如ドンと地震の様な地響きが。ま、まさか……と、一同が建屋に注目を注ぐと――。
ドオオオオオ――――――――――ン!!!
コンクリートに囲まれた密室で、埃と塵舞う室内。そして……引火した爆竹とくれば、どう考えたって――。
「粉塵爆発……」
地響きは更に大きく激しく揺れる。廃材がとめどなく崩れ落ちてゆく音は、完全に日常では経験出来ない域まで達している。
揺れに呼応してか、遠く離れた木々が騒ぎ、鳥達が慌てて飛び立つ姿は、最早天変地異そのものであった。
この世の終焉を伝えるかの大きな揺れは暫く続いた後、徐々に……徐々に、その主張を終えていったのであった。
その後……平和な日常ではまず経験の出来ない、不気味な静寂さがあたりを支配する。そんな中――地面に這いつくばっていたミオナは、ゆっくりとその身を起こした。
「みんな、大丈夫?」
心配をよそに、リリーベルやイーデルアイギス。ニケはすっくと立ち上がり、ミオナの元に集まった。
「先輩こそ、大丈夫ですか?」
「ちょーっと怖かったけど……何とかね」
良かった……と、胸を撫で下ろすとイーデルアイギス。安心したのか、再びぺたんと座り込んだ。
その姿を見たミオナやニケも同様に座る中、リリーベルはハッと思い出したようにアクトポーンに視線を向ける。
「ユアン!」
扉にもたれ掛かるようにしゃがみ込んでいたアクトポーンは、リリーベルの声に応えるように手をゆっくりと振った。
『多少の揺れは感じたけど……流石軍用。ビクともしなかったッスよ』
「よ、良かった……」
安堵したリリーベルは、わああ……と、声を上げて泣き出した。それは、悲しみに苛まれてというネガティブな感情と言うよりも、大切な仲間達が無事に生きていてくれた。ありがとうという心からの感謝の現れであった。
……こうして、マシンワークスの連中の戦いは幕を閉じた。
特別学区の自治統治を担当する統合執行委員会の発表によると……工業地域で起こった前代未聞の爆発騒ぎは、建屋に溜まった謎のガス的なモノが蓄積し、暴発したんじゃないかと言う事で、取り敢えずは話は終了した。
ただ、この情報に懐疑的な目を向ける住民も居るには居たが、肝心の物的証拠が爆発して消失しまい、今となっては調査不能な為、この話はこれ以上深堀りされる事は無かった。
イーデルアイギスは、リリーベルが戻って来た為ようやくお守りから開放され、喜び勇んで魔法技術科ヘ戻っていった。
本人の口からは、せいせいするだの、これで自由だとか適当な事を言っていたが、コレはコレでちょっと寂しそうだった。
ミオナはミオナで元気なもので、一晩休んだ後、ケロッとした顔で機械の修理の依頼が入ったとかで農業地域ヘ。ニケを伴い出向していった。
ユアンは、この戦闘で傷口が再び広がってしまい治療棟に逆戻り。再びベッドで治療に専念する事となった。
傍らでリリーベルが看病する中、ユアンには気がかりな事が一つあった。
先程での戦闘で受けた怪我自体はどうという事は無かったが、爆発後……緑の巨人の様子を見に建屋に入った際の事が頭から離れない。
廃品にまみれて、岩の巨人であった残骸と、かつて黒ベルであったであろう残骸が爆発の影響で、全身散り散りになった状態で散乱していた。
そんな中――煤になった状態の蔦に護られるように錬成銀の短剣が見つかったが、ユアンが手を伸ばし、指先が短剣に触れようとした瞬間……呆気なく粉々に砕け散ったのであった。
今迄、どんな悪辣な環境下でも共にいた得物が、何らかのメッセージを出したんじゃないのか? それとも、お前ではもう私を扱う事は出来ない。止めておけと言ってきたんじゃないのか……と、考え出したら涙がとめどなく溢れてくる。
「結局、俺じゃ駄目だって事なのか? それとも、他に何か言いたい事が有ったのか? どう言う意味だよ。教えてくれよ……」
涙に気付いたユアンは、リリーベルに悟られない様に布団を被りふて寝を始めた。看病をしてくれるリリーベルに背を向けるように。
その頃――マシンワークスの工房では、エルダヤンが電話をしていた。
電話の相手は旧知の仲だったようで、会話が明るく弾む。そんな中――マシンワークスの前で、トラックが止まりエルダヤンを呼ぶ声が。
「お、仕事のようだ。じゃあ、元気でな……スピカ」
エルダヤンは電話を切り、トラックに向かって歩いていった。
(第十話・完)
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