黒と白

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黒武者薩男(くろむしゃさつお)。父の名である。私はもうまもなく四十となる独身の跡取り息子なので私の苗字も黒武者である。同じく現在行方不明中の妹もおそらく結婚はしていないであろうから黒武者。父とはとうの昔に別居して今もおそらく不倫相手のクソ男と暮らして酒でもかっくらっていることであろう母、とは思いたくない、明子という名の女も戸籍上はまだ黒武者明子である。  鹿児島に生まれ住んでいた我が黒武者一家はいわゆる機能不全家庭であった。  当時父の勤務先で何があったのか子供だった私達が知る由もないが、仕事から帰ってきた父はまさに狂気の黒い武者だった。子供達のいずれか、つまり私か妹のどちらかが父の怒りのはけ口、生贄とされた。その暴力はとても激しく残酷極まりないもので、まず柔道技で子供の足を刈るか投げるかで倒す。大人の強い力に幼い子供が抵抗できるはずもなく、簡単に転がされた直後腹を何度も何度も蹴られる、という壮絶な虐待であった。 幼かった私は本能的に自分のお腹をかばった。妹もそうしただろう。小さな兄妹にとって父は絶対的な恐怖の支配者だった。私達兄妹はこんな家庭に産み落とされたことを心から憎んだ。  父  
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