無国籍の告白

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──パンッ、パンッ、パンッ!! 「?!」 銃声が響き、サイレンが鳴る。 無数の銃弾は標的を仕留めた。コンクリートの壁伝いの先で、命の灯火を消した黒い塊が地面に嫌な音をたてて落下する。 身動きしない塊──見知らぬ死体にロランドはディックを重ねてしまい、穴という穴から現実を注ぎ込まれる。血管にまで到達したそれのせいで血の気が引いていく。 ロランドの瞳に影が落ち、現実を写す。 温もりを得た心が冬に連れ戻される。 「君もああなりたくなければ、もうここには来ないことだ」 再びディックの愛から目を背けてしまったロランド。「待ってください!」とディックは先ほどと同じ作戦で口説く。 「年齢や性別は関係ない。そんな障害は想いを燃え上がらせるだけです。僕は貴方を──」 見知らぬ死体を目の前に、ロランドはもう堕ちない。声を上げだしたディックに、人差し指を添え、低く冷たい声を放った。 「精神的な隔たりや障害は確かに恋を燃やす。だがここには……」 ロランドは背後のコンクリート──『ベルリンの壁』に頬を擦り付けた。 「人の命を燃やし尽くす、敗戦国の壁が存在する」 ディックが絶対に触れなかった現実をロランドは突きつけた。 何も言わず、悲しみにくれたディックの瞳が壁を這うように天へ向けられる。 そこにはコンクリートのそびえ立つ壁。 この上には有刺鉄線、それを越えてもサーチライトや監視をする軍人、スパイクストリップ、地雷や犬が設置され、壁の向こうへの亡命を阻んでいた。
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