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カタツムリが殻に閉じこもっているところをパッとひっくり返すと、まれに【ちっさい猫】がシュッと奥へ逃げることがあるらしい。猫は異変を感じると素早く殻に蓋をしてしまう。そうなると普通のカタツムリと見分けがつかない。とにかくスピード勝負なのだと、子どもたちは熱を入れて語った。
殻に蓋をされても、運がよければ猫の鳴き声が聞こえるらしい。殻を乱暴に振り回したり、自分の耳に当てたりしている子どもに何をしているのか訊くと、そういう理由だった。
「テツオくんが一番上手いんだ~、見つけるの」
「いつもテッちゃんがコレ、って教えてくれる~」
そのテツオくんとやらが、おそらく噂の発生源だろうな、と大塚さんはぼんやり考えた。
ある日、大塚さんが帰宅するとブロック塀のそばに誰かいる。
真剣な様子でカタツムリを次々剥がしては、殻の中を覗いている。見ない顔だ。
声を掛けるも、作業に集中しているのか返答は無い。
大塚さんがもう一度呼びかけようとしたとき、
「あっ!」
彼はカタツムリ片手に興奮した声を上げた。
「いたいた! 猫! ちっさい猫!」
突然のことに驚き、一歩下がる大塚さんの顔面に、
「見て見て!」
と、カタツムリの殻が押し当てられた。両手で制しながら殻を見るが、ごく普通の蓋を閉ざしたカタツムリにしか見えない。
大塚さんの反応が不満だったのか、
「ほら!」
今度は耳元に殻を持ってくる。
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