他者の色事情

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恋愛とはきっとカラフルなものなのだろう。嬉しい、楽しい、悲しい、切ない…時には憎悪したり嫉妬したり綺麗な感情だけではないと聞く。私にはそういうものが分からない。 年頃の女の子ならそういった色恋沙汰に花を咲かせ、周囲の恋愛事情に不安がりながら青春時代を過ごすものなのだろうがあいにく、川澄とき子にはそういった感情は理解できなかった。事、恋愛に関しての感情は全くもって真っ白なのである。 朝から一緒に手をつなぎながら登校する男女を目にし、そんなことを考えながら歩いていると突然視界が白で覆い尽くされる。一瞬、自分の気持ちが色になって目の前に現れたのかと思ったがそんなことは当然なく、何かを突き出されたのだと理解するのには時間がかかった。自然、驚きに足は止まる。続いて声がした。 「なー、とき子。これなんだと思う?」 よく知る声。幼馴染の山路健吾だった。 「…なにって。」 突然何だと聞きたいのはこちらの方だ。まったく人が哀愁を漂わせながらアンニュイに歩いていたというのにそれを少しも介さぬ軽快さで話しかけてくるとは。…まあ、自分の恋愛感情への無関心さを言うほど悲観してはいないのだけれど。 そんなことを思いながらため息交じりで返答しつつ、目の前の障害物を手に取る。指に感じる少しの厚みと滑らかさ…視界から離して見るとそれは白い封筒だった。
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