回想

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回想

 2017年12月15日 午後3時の電車の中は青いシートに目深に腰を掛けてスマホを眺める人が何人かで空いていた。そんな中、優菜は純一から貰った、大きめのふかふかの手袋を見つめて涙を堪えていた。(私はこの手袋の暖かさを今までこれほどまでに身に沁みて感じた事があっただろうか・・・。純一は私が思っていたほど軽い人じゃなかったんだ・・・。今更気付いてももう遅いけど。)別れた男から貰った物に感傷に浸るのは優菜にしては珍しい事だった。というより、アラフォーして初めての事だった。可愛らしい顔立ちに女性らしい服装を好む優菜は昔から良くモテた。だから優菜は男に言い寄られる事にも慣れていたし、もちろんかわし方も心得ていた。付き合った男性とはなぜかいつも優菜のほうが冷めてしまい別れを告げていた。  純一に別れを告げられた翌日、優菜はどうしても仕事に行く気分になれず、お昼過ぎに家を出て、純一の洋服に純一のぬくもりを感じながらもその一部だけを郵便局から送付した後、池袋でランチをして一人でカラオケに入ってみるも、歌う気分でもなくそのまま帰宅するところだった。純一とはあるアーティストのファン仲間として出会った。第一印象は痩せこけてい て暗そうな人といった感じで全く優菜のタイプでは無かった。純一の背が高いことに気付いたのもお喋りの純一の自己アピールあってこその事だった。それでも二人でデートをしたその日に純一と付き合う事を決めたのは、眼鏡を掛けた純一の横顔がとても工場で夜勤をしている者のそれとは思えないほどにエリートから滲み出る様なオーラを放っていたからだし、その雰囲気こそが優菜の好みそのものだったからだった。  
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