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それぞれ一様に老いているドライバー達はため息をつく。若い頃ならまだ反撃もできようものだが、なにせ引退後の老後の足しにと働いている者ばかりである。若い大虎などが乗ってくればかなうわけがない。
「〇〇区〇〇〇町までお願いします。」
配車係の女性にそう告げられると、皆一様に渋い顔をした。
「あの辺は治安が悪いからなあ。」
誰一人として動く気配がない。
「私が行きましょう。」
一人の人間が声を上げると、皆が一様に表情が和らいだ。
「いつもすまないねえ。田中さん。」
田中はほんの二か月前から、このタクシー会社で働き始めた新人ドライバーだ。新人ドライバーの割には道を覚えるのも早かったし、どんなに治安の悪いところにでも平気で行ってくれる、度胸の据わった新人だ。だが、愛想はまったく無く、表情がまったく読み取れないので、周りからは浮いた存在であった。
その田中は、人の嫌がる地域への配車も進んで行ってくれるので、周りからは一目置かれる存在となった。田中はタクシーに乗り込むと一路治安最悪の歓楽街へと向かった。
目的地に着くと、予想通りの人間が待っていた。人相は悪く、かなりまだ若いようだが、不相応なアクセサリーをジャラジャラとつけていて、態度は横柄だ。
「〇〇市まで。」
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