ホワイトクリスマス

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告げられた地名は、ここから軽く40㎞はある。本当にこの若造にそれだけのタクシー料金が払えるのか疑問だ。酒臭くはないので、酒は飲んではいないようだ。  告げられた目的地に着き、田中が料金を告げると、その若者は払えないと言い始めた。これも想定内である。 「あ?何か文句あんのか?ジジイ!」 安いセリフで凄んでくる若者に、田中は冷静に告げた。 「ここでは車内が汚れるんで、表に出ましょうか。」 落ち着き払った田中の態度に逆上した若者は顔を真っ赤にした。 「おもしれえ、ジジイ、ボッコボコにしてやっからよ!」 外で対峙する田中と若者。 若者は、田中に飛び掛かろうとするが、体が硬直して動かなかった。 「な、なんだ、これ。体が動かねえ!」 今まで無表情だった田中が口の端だけで笑った。 「君が私の目を見るからですよ。私の目を見てしまったからには覚悟してください。」 田中が口を開くと、そこには鋸のような歯が並んでいた。 「うわっ。」 若者は異様な田中の姿に、驚きの声をあげた。 「ねえ、吸血鬼って知ってます?人間は勝手に吸血鬼をあのような姿で描きますが、実は全然違うんですよ。あんな二本だけの牙で、人の血が啜れると思いますか?」 田中は今まで誰にも見せたことのないような厭らしい笑いを浮かべながら、若者にじりじりと近づいて行く。 「く、来るな!化け物!」     
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