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「最短は一日。仕事を始めて一時間後には、ベルトコンベアに突っ伏して寝ていたわ」
昼休み、勤続十年だと言う彼女はコッペパンを噛みしめながらそう話した。彼女がコッペパンを口に運ぶたび、目もとの皺が上下する。
「まくらに何が入っているのかご存知ですか」
私はフランスパンを口に入れると、眠気を覚ますように何度も噛んだ。彼女はコッペパンを食べ終えて缶の紅茶を飲むと、ふうと一息ついた。
「知らないわ。でもそれを知らずにいて、不都合だったことはないわね」
私は水筒から珈琲を注いだ。豊かな香りを含んだ湯気のおかげで、ようやく目が覚めた。
それからは毎日、水筒に珈琲を詰めて出勤した。黒い珈琲の香りは白い睡魔を撃退し、眠気が覚めると、作業に密かな楽しみを見出だせるようになった。
まくらを撫でる指先から、それを縫った縫製工の性格がわかる。たとえばあるカバーは、とてもきめの細かい丁寧な縫製がなされていた。一方で、飛び出た糸くずをこっそり隠した乱雑なものも稀にある。一見すると同じようでも、中身の詰め具合、糸の綴じ方、ひとつひとつに特徴があり、私はまくらのカバーから工員の性格を想像し、壁向こうで働く縫製工たちのことを思った。
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