冬の朝

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「もしもし。」 スマホを手に立ち上がったマサくんは、すぐに廊下に出て行った。 こんな時間にどうしたんだろう? もしかして、お子さんが急に熱を出したとか? 岡崎夫妻はお酒を飲んだから、マサくんに車を出してほしいという電話かも。 ハラハラしながら待っていると、電話を終えたマサくんがリビングに戻ってきて、また問診票を読み始めた。そののんびりした様子に逆に驚いてしまう。 「え? 何の電話だったの? 岡崎さんからだよね?」 「うん。それが……明日、人間ドックなんだけど、何か持って行くものはあるかって。だから、問診票と検尿・検便と保険証って答えたんだけど、他には別にないよね?」 戸惑ったようにマサくんが見ている問診票に、持ち物リストが載っているのが見えた。 同じものが岡崎さんにも郵送されているはずなのに、わざわざこんな夜中に電話して訊く? 「岡崎さん夫婦だって人間ドックを受けるの、初めてじゃないよね? 毎年受けてたら、それぐらいわかりそうなものなのに。」 私の口調がついキツくなってしまったせいか、マサくんは申し訳なさそうに眉を下げた。 「ごめんね。サユさん、先に寝てて。これ書いたら、僕もすぐ寝るから。」 私が苛立っているのは就寝時間が遅くなるとか、そういうことじゃないのに。 岡崎さんの奥さんが私たちの生活にズカズカ土足で踏み込んできたような気がしたのは、私だけみたいだ。
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