雨の夜

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月曜日と木曜日は可燃ゴミの日。朝八時までに集積所に出すようにと書いてあるけれど、私は七時前に出すようにしている。 初めの頃、八時前に出しに行ったら、すでに管理人さんによってゴミがきっちりまとめられていて、この時間では遅いのだと悟った。 七時半前後は小中学生の登校時間なので、急いでいる彼らと乗り合わせるとゴミ捨てごときでエレベーターを使うのが申し訳なく感じる。 そんな風に試行錯誤を繰り返して、私のゴミ出し時刻は七時前に定着しつつあったのに…… 「……おはようございます。」 「あら、小雪さん。二人なのに結構ゴミが出るのね。」 月曜日の朝イチに岡崎さんの奥さんに出会ってしまっただけでも気が滅入るのに、やっぱり名前を完璧に間違えて憶えられている。しかも、お小言のような一言まで頂戴してしまった。 今朝も奥さんは長く細い脚を見せつけるようなショートパンツを履いている。 「いつもはちゃんとスーツなのよ。今日は仕事が休みだから。」 私の視線を誤解したみたいで、奥さんは言い訳のような言葉を繰り出した。 「これからお散歩ですか? 瑛太くんはいつもは保育園に預けてるんですよね?」 ベビーカーの中の瑛太くんは、フリースのブランケットに包まれて眠っているようだ。 「私の実家が近くなんで、両親に見てもらってるの。私、これから人間ドックだから、今日も預けに行くところ。じゃあね。」 奥さんはカツカツとヒールを鳴らして去って行く。その人間ドックのことで昨日、マサくんにあんな夜中に電話してきたくせに。 私にも一言あってもいいんじゃないの? 夜遅くに悪かったわねとか。私が電話のことを知らないとでも思っているのかな? それとも……電話の用件は人間ドックじゃなかった?
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