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どんよりした天気は私の心を映しているみたいだ。
家に帰ると、マサくんがスーツに着替えていた。
「マサくん、今日は曇りのち雨だって。折り畳み持って行ってね。」
「んー、わかった。」
「今、岡崎さんの奥さんに会ったよ。人間ドックに行くって言ってたけど、旦那さんは一緒じゃなかった。」
「今日は華絵さんだけなのかもね。同じ支店でも全員同じ日に受けに行くわけじゃないから。」
「……それもそうだね。」
全員一斉に休んだら困ることぐらい私にだってわかる。それでも、夕べ奥さんが電話してきたのは、旦那さんも人間ドックの持ち物のことで一緒に悩んでいたからだと思いたかった。
もしかして旦那さんに内緒でマサくんに電話してきた?
それも気になるけど……
「マサくん、奥さんのこと『華絵さん』って呼ぶんだね。」
それがすごく嫌だと思った。私以外の女性を下の名前で呼ぶのも、さん付けするのも。
「うん。『岡崎さん』が二人いると紛らわしいから、みんな『華絵さん』って呼んでたんだ。じゃあ、行ってくるね。」
玄関でマサくんはチュッとキスをしてきた。いつものハムハムキスじゃない。
驚いて瞼を開くと、マサくんの目が泳いだ。
「ちょっと急いでるから。行ってきます。」
「……行ってらっしゃい。」
もしかして……急いで追いかければ、『華絵さん』に会えると思ってるの? マサくん。
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