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夕食の支度を終えたところで、窓の外の雨音に気付いた。
やっぱり降ってきた。でも大丈夫。マサくんはちゃんと折り畳みを持って行ったはず。
ちょっと心配になってシューズボックスの中を見ると、マサくんの黒い折り畳み傘が棚の上に置き去りになっていた。
――マサくん、急いで出たから忘れたんだ。
今日に限って、どうしてあんなに急いで出掛けたのだろう。傘も持たずにキスもおざなりにして……
私が華絵さんの話をするまでは、急いだ様子はなかったのに。
『傘忘れたから、駅まで迎えに来てくれる?』
ポロンと鳴ったスマホに、マサくんからのメッセージが表示された。
駅の売店でビニール傘を買うことは、倹約家のマサくんには考えられないことらしい。
『久しぶりにデートみたいだね!』
そんなことを考えて浮かれてしまう私は、マサくんのためなら土砂降りの中、出掛けるのも苦じゃないのだ。こういうのを惚れた弱みというのかもしれない。
『ありがとう。54分に着く。』
慌てて着替えて、しっかりメイクした。マサくんに少しでも可愛いと思ってもらえるように。
疲れて帰って来るマサくんを待たせたくなかったから早めに家を出て、改札の正面の壁際に立って待つことにした。
マサくんの電車の一本前の電車が到着すると、改札から乗客たちが一斉に吐き出されて来た。
その中の一人がまっすぐ私に向かって歩いて来る。
岡崎さんだった。
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