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人に叩かれたのは、あの時以来だ。
***
会社のお局様にいびられて退職に追い込まれ、次の就職先がなかなか決まらずに困っていた頃。前の会社の同僚だった真由が、パジャマパーティーをしようとアパートに誘ってくれた。
二人で愚痴を零しながらビールやら酎ハイやらを飲んで、一緒にベッドに横になっておしゃべりしているうちに眠りに就いたのが午前一時頃。
久しぶりに楽しい気分になれたのに夜中にトイレに起きた私は、合鍵を使って入って来た真由の彼氏と鉢合わせしてしまった。
「誰だ? おまえ。」
男の酒臭い息に思わず顔を背けると、いきなり頬を叩かれ押し倒されて靴下を口の中に押し込まれる。
壁一枚隔てた向こうで寝ている真由に気付いてほしくて叫んだ声は、汚い靴下に吸い込まれるだけだった。
乱暴に胸を揉まれ、濡れてもいないところに無理矢理突っ込まれた。
ガクガクと人形のように揺らされながら、早く終われと念じていた。早く終われ、早く終われ。ただそれだけ。
あとはよく憶えていない。
ゆっくり起き上がると男はもういなかった。
フラフラしながら着替えてアパートを出て、自宅までの長い道のりを歩いている途中でやっと気がついた。鍵をかけなきゃいけなかったとか、あいつの靴下やリビングに散乱した物や私の血を片付けるべきだったとか。
両親は温泉旅行に行っていたので、明け方に帰った私が頬を腫らしていても誰にも見咎められることはなかった。
真っ先にバスルームに入り、身体をゴシゴシと擦って洗い流した。どんなに擦っても、あちこちについた赤いアザは消えなくて、そこで初めて私の目から涙が零れた。
――この汚れは一生落ちない。
マサくんのためのものだった私の身体は、もう汚されてしまって元には戻らないのだ。
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