純白の心

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「こんにちは。また会えるとは思わなかったな。」 近所のスーパーで買い物した帰り道、後ろから声を掛けて来たのは瑛太くんを抱っこした岡崎さんだった。 咄嗟に辺りを見回すと、 「華絵は実家に帰ってる。」 と苦笑いされてしまった。 「最近見かけなかったから、てっきり紗雪ちゃんは加納くんと別れたんだと思ってたよ。」 「別れてません。もちろん、すっかり元通りとはいかないけど。……それより、岡崎さんはご存知だったんですか? あの二人のことを。」 今思うと、あの雨の日の岡崎さんの態度は、何もかも知っていたかのようだった。 「俺もあの日の昼に知ったんだよ。前の晩に華絵が加納くんにコソコソ電話をかけてたから、気になって岡山支店の後輩に電話してみたんだ。そしたら、当時二人がホテルに入って行くところを見かけた奴がいたらしい。」 「そうだったんですか。……ショックですよね。」 パートナーの浮気を知った者同士、岡崎さんに対して仲間意識のようなものを感じた。 当時、ただの恋人だった私と違い、岡崎さんはすでに夫婦だったのだから裏切られたという思いは私よりも強いだろうけれど。 「紗雪ちゃんは加納くんとは入籍前なんだろ? だったら別れた方がいいんじゃないの? うちは子どもがいるから、そう簡単にはいかないけど。今、結果待ちなんだ。」 「結果待ちって、何の?」 「何のって……DNA鑑定。」 「え!?」 思わず立ち止まって瑛太くんと岡崎さんを見比べてしまった。 「うちの両親はこの子の目元が俺にそっくりだって喜んでるんだ。」 確かにくっきり二重の大きな瞳は岡崎さん譲りで、一重瞼の切れ長の目を持つ華絵さんとは似ても似つかない。 「でもさ、この目、よく見ると加納くんにも似てるんだよね。」 岡崎さんの言葉に背筋がゾクッとした。
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