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目を開けると、商店街のベンチに座っていた。
「あ、気がついた? 卵、割れちゃったよ。」
隣に座る岡崎さんが私のレジ袋を持ち上げて見せた。
じゃあ、今夜はオムライスか親子丼だななんて考える。倒れる前の会話をわざと思い出さないように。
「すみません。貧血なんて高校以来です。ご迷惑をおかけしました。」
子どもの頃から貧血でよく倒れていたのに、久しぶりだったから前兆を感じても対処できなかった。
きっと岡崎さんがここまで運んで座らせてくれたのだろう。瑛太くんを抱っこしているから、男の人でも大変だったはずだ。
「いきなりショックなことを聞かせた俺も悪いんだ。ごめんね、さっきは言葉が足りなかった。加納くんと華絵のこと、話しても大丈夫?」
「大丈夫です。教えてください。」
マサくんが私に嘘を吐くなら、この人から本当のことを聞くしかない。この人が私に嘘を吐く理由なんてないんだから。
「そもそもは華絵が子ども欲しさに加納くんに取引を持ち掛けたらしい。」
「取引?」
「そう。排卵日に子種をくれたら、一回三万円払うっていう取引。」
「何ですか? それ。」
セックスするのに女性が男性にお金を払う? 逆ならわかるけれど。
それに、マサくんはお金欲しさにセックスしたってこと?
岡崎さんの説明は俄かには信じられないような話だったけれど、それがかえって真実を語っているように思える。
商店街のスピーカーから流れる陽気なクリスマスソングが、今の私にはやけに耳障りに感じた。
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