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「当時、俺たちは結婚一年半。自然妊娠しないことを華絵が気にし始めた頃だった。俺は二年過ぎても妊娠しなかったら医者に行こうと言っていたのに、思いつめた華絵は一人で検査に行ったらしい。で、自分に問題がないとわかって、原因は俺にあると考えた。」
「だからって他の男性とセックスするなんて変です。夫婦で不妊治療するかどうか話し合うのが普通じゃないですか。」
「華絵は思い込みが激しくて、自分を変な方向に追い込むところがある。君も見ただろ? 傘を渡しただけで夫を誘惑したと思い込んでヒステリックになる姿を。」
あの時、叩かれた頬に思わず手を当てて頷く。
私をいびっていたお局様もそういうタイプだった。被害妄想が激しくて、変な思い込みで私を陥れた。
「俺のプライドを傷つけずに妊娠するためには、俺によく似た加納くんの精子をもらうしかないと華絵は考えたんだな。……ネットの掲示板でも【自然授精】による精子提供の需要と供給があるらしい。つまり手っ取り早くセックスで精子をもらうってこと。人工授精よりも受精率が高くコストが抑えられるから。」
「そんなことまでして? ……じゃあ、マサくんは華絵さんが妊娠するまで毎月排卵日にセックスしてお金をもらっていたんですか?」
「六回だと言っていた。『酔った勢いで一度だけ』なんて真っ赤な嘘だよ。加納くんは半年もの間、恋人である君を裏切り続け、俺の妻と避妊具なしに交わって精を吐き出していたんだ。孕ませるために。瑛太が加納くんの子じゃないとしても、君は耐えられる?」
唇を噛みしめたまま大きく首を横に振ると、かろうじて留まっていた雫が目から零れた。
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