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クリスマスツリーの前に跪いたまま、私たちは見つめ合う。
床の冷たさよりも、マサくんの探るような目が冷たいと感じてしまった。
「せっかく授かった命を、サユさんが簡単に殺そうとするはずがない。だからすぐにピンときた。僕の子じゃないんだって。」
「気づいてたの!?」
じゃあ、あの時、マサくんが傷ついた表情を浮かべたのは、自分の子を拒絶されたと思ったからじゃなかったんだ。
私が他の男性との子どもを身籠ったと感付いたからだったなんて……
「サユさんは一度も僕の子だとは言わなかったしね。だから同意書にサインした。僕がサインしなかったら、本物の父親のところにサインをもらいに行くかもしれない。それは耐えられなかった。サユさんの子の父親は僕じゃなくちゃイヤだったんだ。」
「だから中絶費用も出してくれたの?」
「そのために会社に内緒でバイトを探してたら、華絵さんに取引を持ち掛けられたんだ。一回三万円。当然、断ったよ。」
「断ったの!?」
「最初はね。」
一瞬見えた希望の光は、あっという間に消えてしまった。
「あの中絶費用のために華絵さんとセックスしたってこと? 確かにお金に困っていたけど、そんなことまでして出してもらいたくなかった!」
「そんなことでもしないと、サユさんを憎んでしまいそうだったんだ! 他の男に抱かれて妊娠したサユさんよりももっと酷いことをすれば、僕もサユさんを責められなくなる。そんなことを考えて華絵さんの誘いに乗った。……きっと僕は嫉妬で頭がおかしくなってたんだろうな。」
「私がマサくんを裏切ったから、それ以上の裏切りとして華絵さんとの間に子どもを作ったって言うの? 私はマサくんを裏切ってなんかない! 無理やり犯されたけど、心は裏切ってなかったのに!」
「え?」
怒りに震える私をマサくんは呆然と見つめた。
今、私が憤っているのは自分自身に対してだ。真由の言う通り、きちんとマサくんに話しておけば良かった。
自分を守ろうとしてマサくんを傷つけて、その結果、二人してもっと大きな痛みを味わう羽目に陥っている。
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