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「無理やりって……まさか……レイプされたってこと?」
私がコクンと頷くと、マサくんは両手で自分の顔を覆って大きく唸った。
私に浮気されたという自分の思い込みを後悔しているの? それとも……
俯いたままのマサくんは、もう二度と私の手の届かないところに行ってしまった気がする。ほんの数センチしか離れていないのに。
「私はマサくんが初めての人でマサくんしか知らなかったから、他の男に汚された自分が恥ずかしくてどうしても言えなかった。レイプされたなんて知ったら、マサくんが私から離れて行ってしまいそうで怖かったの。だから、妊娠した時も本当のことを言えなかった。」
後悔が胸に押し寄せて言い訳めいた言葉が口を突いて出たけれど、マサくんを信じていなかったと言ったも同然だ。
顔を上げたマサくんの目を見ればわかる。レイプされたからって私を捨てるような人じゃない。私はそんなことさえわからなくなっていたんだ。
「サユさんがレイプされたなんて考えもしなかった。ごめん。本当にごめん。そんな辛い目に遭っていたのに、僕は何も知らずに何も出来ずに……」
「それは私が言わなかったから。」
「恋人なのに気付けなかった僕が悪い。挙句の果てに疑ったりして。……遠距離恋愛でいつも不安だったから、妊娠したって聞いた時、絶対に浮気したんだと思った。でも、それを問い詰めたらサユさんを失ってしまいそうで、何も気付かないフリをしたんだ。きっと一夜の過ちだったんだって。僕のところに戻って来たなら、それでいいって。」
「そうやって浮気に目を瞑ろうとしたけど、やっぱり許せなくて自分も浮気したのね。」
「ごめん。『あれは浮気なんかじゃない。金のために精子ドナーになろうとしただけだ』って、ずっと自分にそう言い聞かせてきた。だけど、サユさんからしたら浮気以外の何物でもないよな。」
マサくんが華絵さんを抱いていた。その事実が私の胸を抉る。
私の浮気を疑っていたマサくんも、ずっとこの痛みに耐えていたのかもしれない。
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