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「岡崎さんはDNA鑑定の結果待ちだって言ってた。自分の子どもじゃなかったら離婚するつもりなんだと思う。マサくんはどうする? もしも、瑛太くんがマサくんの子どもだったら。」
「僕の子どもじゃない。」
「調べてみなきゃわからないでしょ!?」
「わかるよ。無理だったんだ。何とか挿入しようとしたけど萎えちゃって。だから、絶対に僕の子なんかじゃない。」
「だって六か月間もずっと」
「一度だけだって言っただろ? 確かに契約では華絵さんが妊娠するまで最低六か月は毎月排卵日に精子を提供することになっていた。」
「契約……」
そんな言葉に少しだけ救われている自分がいる。その行為に愛も欲もなかったのだと思いたくて。
「妊娠した後、父親としての責任を求められても困るし、向こうだって父親として権利を主張されたら困る。だから、これはあくまでも自然授精による精子提供だということを書面にしてあった。たぶん岡崎さんはそれを見たんだ。実際は、酒の力を借りて一回やろうとしたけど無理だとわかったから、契約は破棄した。」
「じゃあ……酔った勢いで一度だけっていうのは嘘じゃなかったの?」
「嘘じゃないけど、子作りしようとしたという事実を誤魔化そうとしたのは卑怯だったよね。ごめん。挿入はしてないけど挿入の一歩手前まではやったんだから、サユさんを裏切ったことには変わりない。この二年間、ずっと後悔してきた。」
「出来なかったってことは、瑛太くんは絶対にマサくんの子どもじゃないのね? え、じゃあお金は? 三万円はもらえたの?」
「精子を提供できなかったんだから金はもらってない。というか萎えた時点で、『何、バカなことやってんだろ』って目が覚めたから、金なんか受け取る気にもなれなかった。あの中絶費用は別のバイトで稼いだ金。初めからそうしておけば良かったのにな。」
「私たち、間違ってばかりだったね。」
「傷つけてごめん。」
「私も。ずっと言えなくてごめんなさい。」
二人で床に座り込んで、キラキラ輝くクリスマスツリーを見上げた。
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