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あれから一年。
街はクリスマスのイルミネーションで飾り立てられていて、嫌でも去年のことを思い出してしまう。
心の傷が癒えたと言ったら嘘になるけれど、この一年、新しい仕事を覚えるのに必死だったから何とかやってこられた。
マサくんはどうしているだろうか。
もしかしたら新しい恋人が出来て、初めてのクリスマスを二人でロマンチックに過ごしているのかもしれない。昔から彼はモテたから。
そんなことを考えながら歩いていると、実家の門の前に若い男の人が立っているのが見えた。
ドクンと心臓が跳ね上がる。
もしかして……と思って、すぐに違うとわかった。よく似ているけれど違う。
「紗雪ちゃん、久しぶり。」
「岡崎さん。どうしたんですか?」
「ずっと君に会いたいと思ってたけど、なかなか勇気が出なくてね。君に話したいことがあるんだ。」
「じゃあ……ちょっと寒いですけど、すぐそこの公園でいいですか?」
家に上げると母親が誤解して喜びそうだから。
結婚式直前のドタキャンに一番ショックを受けたのは、たぶんうちの両親だろう。マサくんとは高校の時から家族ぐるみの付き合いだったから尚更だ。
うちの母は最近、アラサーの娘の将来を心配して、代理婚活への参加を考えているらしい。
私はと言えば、こんなことになって親に申し訳ないという気持ちと、もう少しそっとしておいてという気持ちがマーブル模様のように胸に渦巻いている。
近所の小さな公園に行くと、一組の親子がいるだけだった。砂場で夢中になって遊ぶ男の子と、その両親らしき男女が一緒にしゃがみこんでいる。
もしも、あの時身籠った子どもがマサくんの子だったら、今頃私たちもあんな風に笑い合っていたことだろう。
公園でよく見かける微笑ましい光景が胸を切なくさせるのは、自分が掴み損ねた幸せの大きさを思い知らされるからかもしれない。
「コーヒーでいい?」
振り返ると、岡崎さんが公園の入口にある自販機の前に立っていた。
「あ、はい。ありがとうございます。」
「熱いから気を付けて。」
渡された缶コーヒーはアツアツなのに、心までは温めてくれない。
それにしても、岡崎さんは一体何をしに来たのだろう。
ベンチの隣に座った彼をそっと見上げた。
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