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「どうしてうちの住所がわかったんですか?」
「ああ、それは簡単だったよ。横浜支店の同期に君たちの披露宴の招待状を見せてもらったんだ。紗雪ちゃん、入籍前だったから実家の住所を書いてただろ?」
「で? こんなところまで来て何ですか?」
つい素っ気なく言ってしまったのは、岡崎さんの左手のリングが目に留まったからかもしれない。
彼も私の視線に気づいたのか、右手で結婚指輪を確かめるように撫でた。
「ずっと謝ろうと思ってた。君に嘘を吐いたこと。」
「嘘って……マサくんが華絵さんと性交渉したのが一度じゃなく六回だったって言ったことですか? やっぱりあれは華絵さんじゃなくて岡崎さんの嘘だったんですね。」
「うん。こっちは離婚寸前だっていうのに、君たちが別れていなかったのが悔しくてね。つい嘘を吐いた。紗雪ちゃんは被害者だったのに、悪かったと思ってる。すまなかった。」
「もういいですよ。岡崎さんの嘘がなくても、私たちは別れてたと思いますから。」
私の言葉を聞いて、岡崎さんはホッとしたように大きく息を吐き出した。
この一年、もしかしたら岡崎さんなりに気にしていたのかもしれない。
「岡崎さん、やけに冷静に見えたけど、実はマサくんのこと怒ってたんですね?」
「そりゃあ、たった一度でも加納くんが俺の妻に手を出したのは事実だしね。一度きりだったのも結果論に過ぎない。同じ支店で夫である俺と顔を合わせながら、最低半年はセックスするつもりだったわけだろ? ふざけんな!って思ったよ。だから、君たちの仲を引き裂いてやろうと思ったんだ。……でも、別れたって聞いたら、何だか後味が悪くてさ。」
「岡崎さんの怒りはもっともだし、岡崎さんに教えてもらわなければ私が真実を知ることはなかったと思います。だから、もう気にしないで下さい。」
あのまま真実を知らずにマサくんと結婚するよりは、すべてを打ち明け合って別れた今の方が良かったと思う。
そう思いたいだけかもしれないけれど。
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