1744人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから、今日、紗雪ちゃんに会いに来たんだ。自分が幸せだと、自然と人の幸せも願えるようになるみたいでさ。一応、紗雪ちゃんに知らせておこうと思って。」
「え? 何のことですか?」
岡崎さんの言おうとしていることがわからない。
首を傾げる私に、岡崎さんは名刺大の紙を差し出した。そこには横浜の病院の名前と住所が書かれてあった。
「加納くん、今ここに入院してる。」
「え!? どうして?」
「紗雪ちゃんは吹っ切れたかもしれないけど、加納くんはそうじゃないみたいだ。君と別れてから、軽いうつ病になったらしい。」
「うつ病? マサくんが?」
どうしてそんなことに?
マサくんとうつ病がどうしても結びつかなくて、手にした紙をじっと見つめる。
「『もうあんな人どうなってても構わない』って思うなら別にいいけど、もしも少しでも気になるなら行ってみたら?」
「でも……今さら私なんかが行っても、今カノに追い返されるだけかもしれないし……マサくんも『何しに来たんだ?』って嫌な気持ちになるだろうし。」
「まあ、そうかもね。」
軽く肩を竦めた岡崎さんを見て、酷く落胆した自分に気付く。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、岡崎さんはフッと薄く笑った。
「でも、加納くんはあれから恋人も作らずに、ずっと紗雪ちゃんのことを想ってるかもしれない。もしもそうだったら、どうする?」
「どうするって言われても……」
「紗雪ちゃんはどうしたい? 要はそこだと思うんだよね。相手の気持ちを気遣うのはいいことだけど、勝手に憶測して自分の気持ちを押し殺したから君たちの仲は壊れちゃったんじゃないの?」
私はどうしたい? ――心配だから、どんな様子か見に行きたい。会えなくてもいいから、こっそり一目だけでも。
パッと顔を上げた私に岡崎さんが頷いた。まるで背中を押すみたいに。
「ありがとうございます。私、行ってみます。」
「うん、そうして。これが俺の罪滅ぼしになればいいんだけど。」
最初のコメントを投稿しよう!