冬の朝

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マサくんと私は先月、このマンションに引っ越してきたばかりなので、周辺のお店やゴミの分別方法等わからないことがたくさんある。だから、毎週土曜日は二人であちこち散策しようと決めていた。 黒のダウンジャケットにグレーのトレーナー、それにブルージーンズに白いスニーカー。マンションのエレベーターに乗り込むと、まるでペアルックみたいな私たちが正面の大きな鏡に映った。 「休みの日の朝ぐらいゆっくり寝てればいいのに、サユさんは相変わらず頑張り屋だね。そんなところも好きだけど無理しないで。」 「ん。ありがと。マサくんこそ忙しいのに、いつも私を気遣ってくれて。」 鏡の中のペアルックが重なる。今、管理人さんが防犯カメラをチェックしていたら恥ずかしいななんて思いながら。 「来週人間ドックがあるんだけど、会場の健診センターがどこにあるのかわからないから、これから下見に行ってもいいかな?」 「あ、そっか。マサくんの会社はちゃんと人間ドックを受けさせてくれるんだよね。」 私が先月まで勤めていた会社は小さなところだったから、簡単な健康診断だけだった。その点、マサくんの会社は一部上場企業だけあって、福利厚生もしっかりしている。 「入籍したらサユさんも人間ドックを受けられるようになるよ。配偶者だから。」 「配偶者……」 そんな言葉にも照れてしまう私を、マサくんは優しい目で見つめている。 と、そこでエレベーターがスピードを落としたので、驚いて階数表示を見上げた。 7階に住む私たちはいつもエレベーターを利用しているけれど、2階で止まったのは初めてだった。 マサくんが私を庇うようにスッと背中を向けてくれたので、ポッと胸の奥が温かくなる。 2階だったら階段を使った方が早いのでは? 一瞬、そう思ったけれど、開いたドアの向こうにベビーカーを押す若い夫婦が見えたので腑に落ちた。ベビーカーなら階段は大変だろう。 「え!? 加納くん?」 「あ、岡崎さん……」 乗り込もうとした夫婦が目を見開き、マサくんの背中が一瞬強張った……ように見えた。
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