どうしたい?

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岡崎さんは華絵さんが退院する時に、偶然病院のロビーで入院しにきたマサくんと会ったらしい。それが一昨日のこと。 生後一週間の赤ちゃんが一緒だったため、詳しい話は聞けなかったそうだけど、マサくんの入院が二~三週間の予定だと聞いて少しホッとした。 うつ病の患者さんの面会には病院側も慎重で、一階の面会受付で主治医の許可は得たものの、今日のところはマサくんには無理に会わずに廊下からこっそり覗くだけでいいと思っていた。 それなのにエレベーターを降りたら、正面にマサくんが立っていて、心臓が止まりそうになる。 「サユさん!?」 目を見開いたマサくんはなぜか後ずさりして、近くのソファーに座り込んで頭を抱えた。 だいぶ驚かせてしまったみたいで申し訳なく思う反面、一年ぶりに聞いた『サユさん』が涙が出そうになるほど嬉しいと思う。 それにしてもマサくんはずいぶん変わった。もともと細身だったけれど、今は”痩せこけている”という表現がしっくりくる。 髪は艶を失ってボサボサだし、骨と皮ばかりの手もカサカサしてお年寄りみたいだ。 とりあえず、すぐ横のナースステーションで面会名簿に記入してから、頭を抱えたままのマサくんの隣にそっと腰を下ろした。 「突然ごめんなさい。マサくんが入院したって岡崎さんから聞いたもんだから気になって。」 「え!?」 ガバッと顔を上げたマサくんが私をまじまじと見つめる。 「サユさん? 本物?」 「本物だけど……」 「あー、幻覚かと思った。ついに幻覚を見るようになったかと思ってビビった。」 立ち上がって、こっちだよと病室に案内してくれるマサくんの後ろについて歩く。 うつ病って、もっとどんよりと暗くなる病気かと思っていたのに、目の前のマサくんは違っていた。 ここまでくる途中、電車の中でうつ病のことは検索した。でも、わかったのは原因も症状も千差万別ということだ。どこかの病院のホームページに【うつ病は治ります】と大きく書いてあったのが、救いに思えた。
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