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「わざわざ会いに来てくれてありがとう。こんな酷い有様を見られたくないと思ってたけど、会えたらやっぱりすごく嬉しい。」
微笑んだ顔もすっかり肉が落ちていて、目と口ばかりが目立つ。さっき会った岡崎さんとよく似ていた風貌は、もうどこにも見当たらない。
「痩せちゃったね。」
「うん。眠れなくなって食欲もなくなって、どんどん痩せてった。身体に力が入らないから仕事するのも辛くなって、今は休職扱いにしてもらってる。自宅療養してたんだけど、一昨日風呂で足を滑らせて溺れかけたら入院になっちゃって。」
これだけ話すだけで息切れしたのか、ベッドに腰かけたマサくんは浅い呼吸を繰り返した。
「大変だったんだね。実家で暮らしてるの? ご両親はお元気?」
「うん、元気は元気。でも、結婚がダメになったと思ったら、今度はウツだろ? ずいぶん心配かけてるよ。『おまえの浮気のせいで結婚式直前に破談になって、サユちゃんに迷惑かけたんだからおまえは一生独身でいろ』って言われてる。もちろん僕もそのつもりだけど。」
マサくんがハアハアとまた息苦しそうに肩を上下させる様子を、何とも言えない気持ちで見つめた。
私がレイプのことをマサくんに打ち明けてさえいれば、彼が華絵さんと関係を持つこともなかった。
私にだって非はあったのに、彼はすべての咎を自分一人で背負って責められて、自分自身を責め続けて……
そういうストレスが原因でうつ病になったのかもしれない。
一年前、私が自分の気持ちを押し殺して別れを選んだのは、それがマサくんにとって一番いいと思ったからだ。それなのに、マサくんは心を病んでしまった。
こんなはずじゃなかった。どうすれば良かったんだろう?
――『紗雪ちゃんはどうしたい?』
岡崎さんの声が聞こえたような気がした。
その答えはもう私の中で固まりつつある。
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