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「私への罪悪感からずっと独身でいるなんて、そんな悲しいこと言わないで。マサくんには幸せになってほしい。そのために別れたんだもの。マサくんだってそうでしょ?」
「そうだよ。サユさんの幸せだけを願ってる。」
「でも、私はちっとも幸せじゃない。マサくんがそばにいてくれないから。私はマサくんと一緒にいたい。傷ついても傷つけても一緒にいたい。一緒にいれば、きっと癒し合えるから。そう思っちゃダメ? 迷惑?」
「迷惑、なんかじゃ、ない、けど」
マサくんは涙を堪えるように切れ切れの言葉を紡ぎながらも、首を横に振る。
「僕はもう、まともに生きていくことも出来ないんだ!」
マサくんのカサカサの手に涙が落ちる。
その手を両手で包み込んで口付けた。
「マサくんはどうしたい? 私を幸せに出来るか出来ないかじゃなく、マサくんがどうしたいかだけ考えて。私と一緒にいたくない? また二人で笑い合って生きていきたくない? お願い。正直に言ってみて。」
「サユさんといたいよ。僕だってサユさんと一緒にいたい。許されるならサユさんとずっと手を握り合って生きていきたい。」
「じゃあ、そうしよう? 私たち、ここから始め直せると思うの。」
涙を流しながら抱きしめ合う。
ハムハムと啄んでくれた唇は少しカサついていたけれど、すぐに熱く深くなっていった。
廊下を通る誰かの足音が、ハッと我に返った私たちの身体を引き離す。
マサくんはあのはにかんだような微笑みを浮かべた。
「サユさんがそばにいてくれれば、元気になれそうだ。」
「うん。ゆっくり休んで、ゆっくり元気になっていこうね。」
「元気になったら……またプロポーズしてもいいかな?」
マサくんが躊躇いがちに尋ねるから、その言葉を噛みしめるようにゆっくり頷いた。
やっと私たちは偽りのない真っ白な心で手を取り合える。
夢みたいだけれど夢じゃない。それを確かめるようにマサくんの手に触れると、そっと優しいぬくもりが私を包んでくれた。
END
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