冬の朝

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エレベーターに乗ってきた若い夫婦はマサくんの知り合いのようだ。 社宅とはいえ関東だけでも多くの支店を持つ会社なので、今まで出会ったマンションの住人にマサくんの知人はいなかった。 マサくんは入社四年目。二年目までは岡山支店で、三年目からは横浜支店で働いている。今勤めている横浜支店の人だったら、同じマンションに住んでいることをお互い知らないわけがない。 ということは岡山支店で一緒だった人? マサくんの肩越しに、岡崎さんと呼ばれた男性を見上げた。イケメンでインテリっぽい雰囲気はマサくんと似ている。 奥さんはスラッと背の高い美人さんで、二人とも歳はたぶん私より少し上ぐらい。ベビーカーの赤ちゃんは男の子っぽい服を着て、車のおもちゃを持っていた。 「加納くんは確か横浜支店だったよね?」 「はい。岡崎さんは?」 「今年の10月から川崎。やっと東日本に戻れたよ。あれ? そういえば、加納くん、結婚した? この社宅、単身者は入れないよな?」 ――『結婚式は来月ですけど、たまたま退去者が出たからフライングで入居させてもらえたんです。』 そんな説明をした後に、きっと私を紹介してくれるだろう。エレベーターの隅で、私はドキドキしながら挨拶の言葉を考えていた。 「あー……はい。何とか。」 私の期待とは裏腹にマサくんは曖昧な答えを口にしただけで、私を後ろに隠したまま。 どうしてマサくんは私を赤の他人のように扱うのだろう? まるでエレベーターに乗り合わせた見知らぬ人みたいに。
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