冬の朝

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マサくんの意図が読めないから、挨拶していいのかわからずに黙っていたら、岡崎さんの奥さんがヒョコッとマサくんの脇から顔を出して私に笑いかけた。 「小雪さん、だったかしら? 高校時代からの付き合いだって聞いてたけど。」 「……紗雪(さゆき)です。」 一応、名前を訂正してから、笑顔で会釈した。 マサくんったら会社の先輩の奥さんにまで、私のことを話していたらしい。 それが嬉しくて自然と口元が緩んだけど、奥さんの記憶力は相当なものだ。旦那さんの会社の後輩の恋人の名前や馴れ初めを、すぐに思い出せるなんて。 エレベーターを降りると岡崎さんとマサくんは駅の方へと歩き出し、その後ろにベビーカーを押す奥さんと私が並んだ。 「私ね、加納くんが入社した時の教育係だったの。だから、小雪さんのことは根掘り葉掘り聞いてたし、写真も見せてもらってた。」 「そうだったんですか。」 名前をもう一度訂正するのも悪いような気がして、私は相槌を打つだけにした。 教育係の先輩が女の人だなんて聞いていなかったな。それもこんな綺麗な人だなんて。知っていたら、きっと心配になっていただろう。あの頃は岡山と東京で遠距離恋愛だったから。 「金曜の夜に一緒に飲みに行っても、加納くんは新幹線の時間を気にしていつもさっさと帰っちゃって。毎週東京に帰るから、お金が貯まらなくて大変そうだったわね。」 そうだった。あの頃は私が実家暮らしだったから、マサくんは毎週末の交通費とホテル代でお給料を使い果たしているようなものだった。 私も退職に追い込まれて、次の仕事が見つからなくて。 岡山から毎週会いに来てくれるマサくんが心の支えだったのに、私は彼に中絶したいと言ってしまったんだ……
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