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赤、青、赤、赤。
青、赤、赤、青。
ユラユラ立ちのぼる一筋の煙が消えてゆく。
天井に届く前には散ってしまう灰煙が、仏壇の黒を際立たせる。
見つめていると命を吸い取られてしまいそうで、瞼を下ろす。
青、赤、赤、赤。
赤、青、青。
赤、赤、赤。
隣で母が動く気配がした刹那、おりんの甲高く重い音が空気を震わす。
青、青、青。
赤、赤、青、青。
瞳を開けると、この世の幸せを全て噛み締めた老婆の笑顔がある。
隣に目を向けると、母は目を瞑ったまま泣いていた。
仏壇に向かって手を合わせる母の姿が、生前の祖母と重なる。
けれども、祖母は泣いてはいなかった。
祖父の仏壇に手を合わせた後、祖母はよく、
「いつもじいさんには、昼行灯みたいな奴だなって言われたものだよ。わたしゃ鈍臭くて、ぼうっとしてるからぼんやりしてる間に命落としそうだって。命落としたのは、おまえさんじゃないか」
私に喋っているのか、祖父にぼやいたのか分からない言葉を虚しそうに、しかしどこかに諦めきれない哀しみを滲ませて呟いていた。
赤、赤、青。
青、青、赤。
赤、青、青、青。
「今、何考えてる?」
力のない声が母の口から漏れる。
「学校の給食に出た牛乳のパッケージの色」
「何それ。あんた、ばあちゃんの前で何考えてるのよ」
微かに母が笑った。
厚化粧が崩れて、お化けみたいだ。
「あんたもばあちゃんに似て昼行灯みたいな人ねぇ。話が噛み合わない。いつもぼんやりしてる」
中学の給食でいつも出た二百mlの牛乳。
三年間顔を突き合わせたはずなのに、赤と青の丸模様がどんな風にデザインされていたか思い出せない。
不規則に並んでいたような気がして、正確が分からない色の並びをいつまでも考える。
色の並びが、白一色に染まった牛乳瓶に変わった頃、母の涙が伝染したかのように私の目からも、涙が溢れた。
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