牛乳

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昨年の夏、私は祖母の家に一ヶ月ほどいた。 家の裏手には田んぼと一面に草がはびこる荒地。 車を何台も置ける駐車場の片隅に蜜柑の木と柊があり、その間からミョウガの芽が伸びていた。 家半面を囲うように草木の生えて人一人がやっと通れる庭道。 葉をよく見てみると、親指の爪ほどしかないアマガエルがしょっちゅう張りついていた。 祖母の家にいた間、受験生らしいことは何もしなかった。 夏期課題も、塾の分厚いテキストも、学校の人間関係も、感情さえも自宅に置いてきた。 いや、最後の二つは捨ててきた。 一日中ぼんやりして、思い出したように庭に出て、生き物を見る。 祖母の飼い猫を撫でていると、蚊に刺された。 外の水道で手を洗おうとすると、蛇口や灰色のバケツのふちにアマガエルが居座っていた。 祖母がそっと、バケツに波波水を注ぐとカエルが尻を水に浸して涼んでいた。 その様が何だか可笑しくて、久しぶりに笑った。 玄関口の外に置かれたキャットフードを狙いに、蛇やカラスがやって来る。 それらを追い払っていた時、ポストの下に置かれたボックスが目に入った。 祖母に聞くと、牛乳箱だと言った。 よくよく冷蔵庫を確認すると、牛乳瓶が二本冷やされていた。 台所の水道の上には、空の牛乳瓶が二本、乾かされていた。
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