牛乳

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とある日の昼間、仏壇に手を合わせる祖母に聞いてみたことがある。 「配達してもらってる牛乳、じいちゃんにお供えしないの?」 長い沈黙の後、 「一度お供えしてみた事がある」 どこか遠くを見ようとする祖母の瞳は驚くほど、生気がなかった。 「異様に牛乳瓶の白が、仏壇には似合わなくて、見つめていると何だか恐ろしくてね。それから、お供えはしないんだ」 もう一度、私と視線を交えた時には光が戻っていた。 「でも、飲んでると、安心するんだよ。牛乳は健康にもいい」 立ち上がった祖母についていくと、飲むかい、と牛乳瓶を差し出され、迷わず受け取った。 飲みながら、何で二本ずつ頼むのかと聞くと、 「じいさんと一本ずつ、晩酌代わりに飲んでたんだよ。そのくせが染みついて、抜けなくてね」 その日の祖母は、一回り小さくなってしまったような気がした。 触れてはいけない祖母の弱さを突いてしまった。 「ごめんなさい」 「謝ることなんか何一つないよ。疑問に思ったことはどんどん聞きなさい」 私の頭を撫でる手は皺くちゃで、祖母の老いを実感した。
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