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プロローグ
「ごめんね」
そう言って母が泣いた。
夏を過ぎたある夜のことだった。
幼すぎてなんのことか理解できなかった。
その三日後、母の姿が家の中から消えるまでーー。
今はバラエティー満載の年越し番組がいくつもある。 辻直人はその中の一つを選び、こたつに半纏というお決まりの格好で、台の上に頬をつけ見ていた。
大晦日の今日、残業を強いられ、定時から三時間オーバーの九時にやっとバイトから解放され、途中で二十四時間スーパーに立ち寄り、買い物をして帰ってきた。
外は白いものが散らつき、吐く息も白く、肌に痛みを覚えるほどの寒さに、直人の鼻は赤くなってしまっていた。
古いマンションの五階の自分の部屋に帰ると、すぐに足で赤外線ストーブのスイッチを入れ、しばしその場でうずくまり、熱を放つストーブの前に手のひらと顔をかざした。
ある程度暖まったあと、マフラーと手袋をはずしこたつの中に突っ込むと、ダッフルコートだけを脱ぎ、代わりに半纏を着込む。
「さむ……っ」
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