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 不満と言えば食事だろうか。 料理の腕がいっこうに上がらず、作れるものといえばラーメンかスクランブルエッグ。なぜか料理本を見ながら作ってもそれなり、と言えるものさえ作れないのだ。  かといって、赤の他人に食事を作ってくれと言うのも見当違いな気がする。  だいたい相手がどういう人物さえかもわかっていないのだ。 男なのか女なのか。独り暮らしか家族持ちか。老人なのか若者なのか。 苗字だけではなんの情報にもならない。  そう思って手紙をテーブルに置こうとした時、かさりとそれが出てきた。  読み終わった手紙の後ろに、もう一枚。  綺麗に折り畳まれすぎて、気づかなかったのだろう。 「なんだろう」  どうやら手紙とは違うらしい。  空白の目立つ便箋を上にすると、直人は目を丸くした。 「……なん、だろう?」  紙いっぱいに描かれているのは、絵、だった。  それもおそらく幼児が描いたと思われる意味不明なものだ。 色とりどりの鉛筆で描かれたそれにしばらく目を取られていると、ふと気づく。 絵の下に書かれた文字に。 『息子が辻さんの絵をかきました。よければ貰ってください』  そして、そのさらに下にフルネームが書き添えてあった。 「辻村直嗣……直の字まで一緒なんだ……」  そして再び、その上手くはない絵に目を移す。     
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