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 まるで聞き分けのない恋人を相手にしているような直嗣の態度に、直人は居たたまれなくなる。そんなわけはないとわかっていても、気になる相手がこんな至近距離で、尚かつスキンシップもまったくの他人へするのとは違う頻度でやられては勘違いしてもおかしくないのでは。直人はそう考え出すと、恥ずかしさでますます顔を俯けてしまった。 「食べ終わったら湿布を変えるから」  トレイを直人の太股の上に置いてくれた直嗣が、そう言って直人の髪を梳くように撫でる。直人は小さくそれに頷くことしかできず、そっと箸を手に取った。  すると頭の上からくすりと笑う声が聞こえ、直人はまた直嗣は何を言い出すのだろうと動きを止める。 「君も直樹も、甘やかすと大人しくなるところが似てるよ」  その台詞に、直人の箸を持った指がぴくりと震えた。 「不思議だね」  直樹の事を思い出しているのか、直嗣がさも愛しげに笑うと、直人は震えた手にぎゅっと力を入れる。 「ーーそう、なんですね……」  口から乾いた声を出し、直人は微かに笑ってみせた。 「そういうところが可愛くもある」  直人の様子が変わったことに、直嗣は気づかない。気づかないままに、今の直人には残酷な言葉を続けた。 「じゃあわたしも遠野さんと食事をしてくるよ。すぐ戻ってくるから食べ終わったらそのままにしておいて」  俯いたまま頷いた直人を照れているとでも思っているのだろう。直嗣はさらにもう一度直人の頭を優しく撫でると、そのまま部屋を出て行ってしまった。 「……っ」     
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